独り身の姉が私の婚約者と仲良くなっていました。~そういうことなら二人で仲良くしておいてください、私は無関係で結構です~
その日、私は珍しく婚約者アルトスに呼ばれ、呼び出された場所へ向かった。
少し早いかな、と思いつつも、その場所へ行ってみる。
やはりその場所にはまだ誰もいない。が、ふと視線を逸らした時、建物と建物の間のやや薄暗い路地に見覚えのある顔があって。
そう、その見覚えのある顔というのが、アルトスと私の姉だったのだ。
「あ……ん、もうっ……」
「何だ、今さら怖くなったのか?」
「ち、が……」
「いいだろ、どうせここには誰も来ないんだから」
当然、たまたま姉が通りかかったという可能性もある。アルトスが待っている時に偶然出会った、という可能性も、ないわけではない。
しかしそうではないとすぐに分かった。
なぜなら非常に距離が近かったから。
二人は恋人同士であるかのように身をすり寄せている。
たまたま出会っただけならそんな距離感にはならないだろう……。
「ちょ、っと、待ち合わせは……?」
「いいんだよ」
「ええ……?」
「どうせまだ来ないだろ、時間になってないしな」
アルトスと姉は唇を重ね熱い吐息をこぼし合う。
明らかに普通ではない……。
「あの……アルトスさん?」
私は勇気を出して声をかけてみる。
「こんなところで……何をなさっているのですか?」
唇が震えそうだった。
でも勇気を振り絞る。
「アルトスさん、どうして姉と……」
「はっ、ちょうど良かったわ」
ええ……。
やはりそういうことだったのか。
正直意外だ。
ここまではっきりと言ってくるとは思わなかった。
けれども、もうどうでもいい。
「今日、婚約破棄を言おうと思っていたんだ」
彼も姉と結ばれる方が幸せなのだろう。そういうことなら私はそれで構わない。仲良しな二人を引き裂くようにしてまで私が間に挟まっていようとは一切思わない。
もっとも、姉の情緒不安定な面を知らないからそんな仲良しでいられるのだろうが……。
「私との婚約を破棄、ということですね」
「あぁ」
「そうですか……分かりました。構いません。では、私は去ります」
私はその場で一礼する。
「さようなら。お幸せに」
◆
あれから数年が経った。
今私は実家を離れている。婚約破棄うんぬんで恥とか何とか言われ父親と揉めたからだ。ただし、母親はずっと私の味方をしてくれていたので、彼女とは今でも関わっている。
私は今、この国の都市部に住み、働きつつ穏やかに暮らしている。
現在の職場はとても良い環境。
心地よく働けている。
だからこの道を選択したことは後悔していない。
感情的な姉に絡まれることはないし、自由もある程度あるので、毎日はとても楽しい。
ちなみに。
母親から聞いた話によれば、アルトスと姉はあの後結婚したらしい。しかし、結婚した瞬間姉は情緒不安定を隠さないようになり、アルトスは日々暴言を吐かれるようになってしまったそうだ。
それにより心を病んだ彼は、ある日の晩、突然家出したらしく。
そのまま行方不明に。
そして、捜索の結果、数ヵ月後に森で亡骸が発見されたそうだ。
その一件によって姉はますます情緒不安定になり、一日のほとんどを激怒と号泣を繰り返して過ごすような状態になってしまったらしい。
◆終わり◆




