婚約者がいる身で他の女性といちゃつくなら、もう少し場所を考えたほうが良いですよ。
最近、婚約者タイムズに関する、よろしくない噂を耳にする。
噂によれば、私という婚約者がいるにもかかわらず、他の女性と仲良くしているのだそうだ。しかも、ただ仲良くしているのみでなく、その女性といちゃついているところが目撃されているらしい。ちなみに、いちゃつきの目撃情報が出ている場所は様々。屋外、屋内、問わず、だそうだ。証拠も出ている。
そして今日、私は、タイムズがその女性を家に呼ぶという情報を得た。
そこで彼の家へ行ってみることに。
私が彼の家へ行くのは珍しいこと。だが私は彼の婚約者、訪問しても誰もおかしなこととは思わない。そこを利用し様子を探るのだ。もちろん、何もなければそのまま帰るつもりだ。
で、行ってみると。
「ねぇ~、こっちにも~……触、れ、て?」
「あぁ可愛いなぁ、積極的だなぁ」
「でもいいの~? 婚約者がいるってぇ~……」
「気にしすぎだよ」
想定通り、廊下でいちゃつく二人を目撃できた。
タイムズは女性の腰へ指を這わせる。
「あいつはそんな勘の良い女じゃないから……」
よし、声をかけよう。
「あら、タイムズ。こんなところにいたのね」
声をかけたのが私だと気づいたタイムズは青ざめる。
どうやら本当に気づかれていないと思っていたようだ。
でなければここまで青い顔にはなるまい。
ここまで何度もいろんなところで豪快なことをしていて気づかれないと思っていたのだとしたら……純粋過ぎるというか何というか。
タイムズは女性からばっと離れる。
「ど、ど、どうしてここにッ!?」
口をぱくぱくさせるタイムズ。
「ちょっとした用事で。でも……もう話す必要はなさそうね」
「待て、すぐに話を聞く!」
「結構よ。そちらの方と引き続き楽しんでおいて」
「違う! 誤解だ!」
かなり慌てている様子だ。
「誤解? ……私、何も言っていないけれど」
「え? え?」
「でもそういうことみたいね。じゃ、婚約は破棄とさせてもらうわ」
女性は放置されている。
「やめて! それだけは! 頼むから、謝るから、今日のことは秘密にしておいてほし……」
「安心して、皆もう知っているわ」
「……へ?」
「だから今さら心配しなくて大丈夫よ」
気づいていないのは彼だけ。
周囲は皆二人の関係を知っている。
「じゃあね。さようなら」
婚約破棄は決まった。
手続きを進めよう。
その後、私は、タイムズとの婚約を正式に破棄した。
正当な理由と証拠があるのはありがたかった。
それらがあれば婚約破棄の手続きも進めやすいのだ。
さて、これからどうしようか。
まぁ焦ることもない。
のんびり生きてゆこう。
◆
あれから数年、私は今、趣味の延長線上でアクセサリー店を営みつつ結婚もして家庭も持っている。
毎日とても忙しい。
けれども楽しさもある。
年内には第一子も誕生する予定だ。
大金持ちというわけではないけれど、無難に暮らすくらいのお金はあるから、そんなことは気にならない。それよりも、過ごしやすい環境で生きていられることが何よりも嬉しい。夫からは嫌なことは言われないし嫌なこともされない、それだけで嬉しいし幸福を感じる。
ちなみにタイムズはというと、あの時の女性との関係はあの日に終わったそうだ。
そう、私がいちゃつきを見たあの日、である。
あの日、彼は、私の前で、女性を大切にしていないかのように振る舞った。それが原因となって、二人の関係は壊れ終わってしまったのだそうだ。
もっとも、私には関係ないけれど。
で、タイムズは今も一人生きているらしい。
両親とも婚約破棄の件以来疎遠になったそうで。
今や彼に味方はいないとのことである。
◆終わり◆