完璧令嬢は婚約者を奪われた!? ~しかしそれでも不幸な目には遭わない~
良家の生まれで、麗しい容姿を生まれ持ち、性格も悪くない。
エアリアルはそんな女性であった。
特にその長く真っ直ぐな銀髪は美しく皆から称賛されていた。
そんな彼女と学園卒業後間もなく婚約したのは、近年領地持ちとなった家の子息であるアッポカーテである。
アッポカーテは学園時代からエアリアルに憧れており、卒業が近くなった頃に彼女の親に接近。器用にすり寄り、エアリアルの婚約者という席な滑り込んだ。
「ありがとう、エアリアルさん。貴女と一緒になれて嬉しいです」
「こちらこそ」
二人は幸せになり……かと思われた。
だが。
婚約して時が経つにつれ、アッポカーテはエアリアルといることを辛く感じるようになっていった。周りから釣り合っていないだの彼女に相応しくないだの言われるようになったからだ。アッポカーテは女性より下として扱われることに耐えられず。そんな時ちょうど近づいてきていた年下の女性リリアに徐々に惹かれていく。リリアは同じ歴史の浅い領地持ちの家の娘で、育った環境が似ていて、話が合う。いつしかアッポカーテの心はリリアに向いていた。
そして。
「エアリアルさん、ごめん、婚約は破棄させてもらうよ」
やがて彼はリリアと生きる道を選んだ。
「ごめんなさいねぇ、エアリアルさん。あたし、奪うみたいになっちゃってぇ~。でも仕方ないの、あたし、いっつも女のいる人に惚れられちゃうの~。罪よねぇ。悲しいけど、でも、これって定めっていうかぁ、魅力あるから仕方ないのよね~。ごめんなさぁい~」
リリアは勝ち誇った顔をしていた。
「そうですか。……分かりました」
エアリアルはそれだけ言って去った。
その後、アッポカーテのもとへ、彼がリリアと深い関係にまで発展していたことに関する証拠と共に慰謝料の請求書が届く。
また、リリアにも、同じようなものが届いた。
二人は払わないことを選んだ。
が、請求を放置していると牢に入れられると知ると、アッポカーテは慌てて支払った。
だがあまり資産のないリリアはすぐには払えず。
危機を知ったアッポカーテは彼女を放っておけず、親の金を使い彼女の分を埋めるように代わりに支払った。
だがその直後リリアはアッポカーテの前から消える。
「リリア! どうして! どこへ行ったんだ! 帰ってきてくれリリア! 会いたい! 会いたいよおぉぉぉ!」
リリアを失ったアッポカーテは毎日のように号泣し叫んでいた。
彼の心は壊れてしまったのだ。
「リリアぁぁぁぁ!!」
婚約者を失い、愛するリリアを失い、親からは親の金を勝手に使ったことを責められ。
アッポカーテは破滅へ向かうしかなかった。
それは、生きながら死へ向かうようなもの。
いや、死よりも辛く苦しい地獄で焼かれつづけるようなものだ。
そしてリリアはというと、地位ある家の娘であるエアリアルを巻き込んだ問題を起こしたことで家の評判が大きく下がってしまい、以降誰からも婚約を希望されなかった。
それとは逆に、エアリアルには次々と婚約希望者が現れ、彼女はやがて元商売人で権力者の家の長男と結ばれた。
エアリアルは温かな夫に加えて二人の子にも恵まれ、穏やかに暮らしている。
◆終わり◆




