勇者に差し出された王女は逃げることを選びました。そして戦いは再び幕開けることとなったのです。
私は国王の娘。
つまり王女。
しかし人権はないも同然。
先日、国を魔王軍から護ったとされる勇者アボトガと、強制的に婚約させられた。
父は私を道具としてしか見ていなかったのだと思い知らされた。
「なぁ~プリンセス? あんたさぁ、もうちょっとまともに奉仕できねぇのか? おらぁ国を護った英雄様だぞ?」
「そのような行為はまだ早いのではないでしょうか」
「は? 調子乗り過ぎだろ? 王女だからってお高くとまってんじゃねーよ。ばーか、ばーか、ばーか」
アボトガは強いのかもしれない。
しかし性格は最悪だ。
特に、女性を遊びの道具のようにしか見ていないあたりが、非常に嫌。
「アボトガ様ァ! あんな女放っておいて、あたしと遊びましょうよぉ」
「あんた、ちょっと、抜け駆けしないでよっ」
「あちゃしねぇ~アボトガ様だいしゅきぃ~一番じゃなくてもいいから可愛がっちぇえ~」
この取り巻きの女たち。
彼女らの言動もアボトガを勘違いさせているのだろう。
彼が「女は放っていても寄ってきて奉仕するもの」と考えているのも、取り巻きたちのせいかもしれない。
もうここにはいられない。
ここにいてはどうにかなってしまう。
そう思って。
私はある晩こっそり彼の前から去った。
直後、魔王軍から接触があった。
魔王が妻を探しているらしい。
で、王女である私に話が来たようだ。
一度は戦った国へ行くことが正しいのかは分からなかったけれど、行くあてもなかった私は、その話に乗ることにした。
こんな機会はない、と思ったから。
魔王のもとへ行き、たとえ酷い目に遭ったとしても……あんな臭いアボトガのところにいるよりはずっとましだ。
◆
そして私は魔王の妻となった。
彼は意外と紳士であった。
思っていた姿とは違っていた。
魔王が絶対悪、それはあの国での話でしかなかったのかもしれない。
「今夜は茶を飲もう」
「良いですね」
「……宵? 言葉選びが素晴らしい」
「ち、違います! 良い、です!」
「あぁそうか」
「……がっかりしました?」
「いいや、そんな風には思わない」
魔王はいつも私を気にかけてくれる。
「むしろ、かつて敵国だったにもかかわらずここへ来てくれてありがとう。感謝しているよ」
◆
それから数年、魔王軍と生まれ育ったあの国は再び戦争になった。
かつてあちら側にいた私。
でも今はこちらにいる。
けれども迷いはまったくなかった。
今はもう魔王の妻だから。
勇者アボトガは実質遊び相手の女性戦闘員たちを連れて出撃してきて、私は彼と再会する。
「国を裏切った王女ぉ、今日ここで死なせてやる!」
「そういうわけにはいかない。彼女はもう我が妻だ」
「はぁ~? 魔王てめぇ馬鹿だろ! その王女はなぁ、一応今も、俺のおらぁの婚約者だぞぉ~」
それに対し、私は返す。
「貴方との婚約は実質破棄となっています」
「ま、しばらく会ってねぇ~しなぁ」
「婚約は破棄も同然。そして、私たちは、もう敵同士です」
「あぁそうだなぁ、まぁ、それでもいいけどな~」
私はもう彼とは生きない。
「我が妻よ、良いのだな?」
「はい」
ぶつかり合う魔王と勇者。
結果は前回とは違った。
「終わり、だな」
魔王は勝利。
勇者アボトガとその仲間の女性たちは討たれた。
国は魔王軍のものとなる。
勇者とその仲間は惨めな姿で王都の広場に晒されることとなり、国王とその親族は捕まり牢屋へ入れられることとなった。
◆
あれから数十年、私は今、魔王と共に生まれ育ったこの地に生きている。
娘は二人。
頭から生えているつのが父親似だ。
◆終わり◆




