事故にみせかけ殺そうと思ったがなかなか上手くいかないので口で伝えることにした? 順番がおかしいですよ!
ここ数カ月、やたらと事件に巻き込まれると思っていた。
街を歩いていたら頭上から太い木の棒が大量に降ってきたり。
買い物中に背後から鉈で襲われたり。
食後に突如全身が痙攣し一時動けなくなったり。
自室にかなり多くの毒蟲が配置されていたり。
以前はそのようなことはなかったので、明らかに何かがおかしいと思っていたのだが……。
「事故にみせかけ殺そうと思ったがなかなか上手くいかないので口で伝えることにした。君との婚約は破棄とする」
何がどうなっていたのかが判明した。
婚約者ルクの発言によって。
「え……と、その、意味が……」
「言った通りだ」
「では貴方は私を殺そう、と……?」
「ああ、婚約破棄を伝えるより殺める方が早いと思っていたのだ」
「ええ……」
わけが分からない。
普通逆だろう。
先に口で伝えるべきだろう。
彼の思考回路が意味不明過ぎる。
「俺には本当に好きになれる人と出会った。で、君の存在が邪魔になった。君がいては彼女と堂々とは生きられない。そこで婚約を破棄しようと考えたのだが、女性から『口で言っても粘られたらややこしいことになるわよ、殺める方が早いわ』と言われ、その通りだと思った。そして君を殺めようと何回も挑戦した」
なんということだ……。
「しかしなかなか上手くいかなくてな。さすがにもうそろそろ諦めることにした。で、こうして君に話してみた」
意味が分からない。
気味が悪い。
彼の言っていることを私は理解しきれない。
「ということで、婚約破棄、受け入れてくれるな?」
「はい」
「助かる」
「あの……もう殺さないでください」
「もちろん。離れてくれるのならばそれでいい」
「ありがとうございます」
彼の言葉を信じて良いのかは掴めない。が、取り敢えず彼とは離れたい。彼はいろんな意味で危ないと気づいたから。それに、彼が愛している女性も、そんなことを言い出すあたり危ない人のようだ。二人とは速やかに離れたい。
こうして私はルクと別れることとなった。
◆
あれから数年、私は今、この国の王女マリーネの恋人となっている。
マリーネには婚約者がいてもうすぐ結婚する。
しかし彼女が本当に愛しているのは私。
彼女は同性が好きなのだ、だから、彼女と婚約者の結婚は国のための形だけのもの。
「今日も来てくれたのね!」
「はい」
「あぁ、嬉しいわ! アナタとずっと一緒にいたい!」
「ありがとうございます」
私は毎晩彼女のところへ行く。
「あ! そうそう、あのルクって人、処刑されたわよ!」
「え。そうなんですか」
「前に話してくれたでしょ? 婚約破棄したいがためにアナタを何回も殺そうとした、って」
「はい」
「許せなかったから、彼は死刑としたわ!」
無邪気にそう言って、マリーネは抱き締めてくる。
「アナタを傷つけようとした人になんて生きていてほしくないもの!」
「え……権力があればそんなことも……?」
「もちろん冤罪じゃないわよ! その人、少し前に夫婦揃ってやらかしていたの。だからちょうど良かったの。一言加えて刑を少し重くしただけ!」
マリーネはどこまでも明るかった。
事情は知らないが、ルク夫婦はルクの職場の女性数名を殺そうとした罪で捕まっていたらしい。
それを知ったマリーネが少し言葉を入れたことで、二人は死刑となったそうだ。
ちなみに、ルクは処される前に「この女にそそのかされただけだ!」と泣き叫び命乞いしていたそうだが、妻は冷静でずっとくすくす笑っていたらしい。
「さっ、どうぞこっちへ! 今夜も楽しみましょ!」
◆終わり◆




