理不尽な婚約破棄で彼女の命を奪ったことを忘れるな。~相応の罰を受けてもらう~
アルベナ・オーストリッテは誰もが絶賛するような美女であった。
彼女には婚約者がいた。
名はオーディアという。
しかし彼はアルベナが美し過ぎることを良くは思っていなかった。彼はいつも友人などに「彼女の隣にいると自分が美麗でないことを痛感し辛い」とぼやいているほどで。アルベナの美しさに関しては認めながらも、その隣にいることを良いこととは思えていなかったのだ。
「アルベナ、やはり君と生きていくのは無理だ」
その日、彼はついに本当の気持ちを伝えた。
「え……」
「君と生きていける気がしない」
「待って、どうして」
「君は美しい。だが、だからこそ、君といると辛くなってしまう。自分はこんなで情けない、と思ってしまうんだ」
本当の気持ちを告げられたアルベナは戸惑う。
「そんなことないわ。貴方も十分素敵よ。自分はこんな、なんて、そんなことを言わないで」
今にも泣き出しそうなアルベナ。
だがその時のオーディアは冷たくて。
「君との婚約は破棄するよ」
最後にそれだけ言って、その場から立ち去った。
愛していたオーディアから絶対的な別れを告げられたアルベナ。彼女はその場にへたり込み、しばらく動けなかった。まるで腹痛に襲われたかのように胴体をくの字に曲げ、手のひらで顔を覆い、涙を流す。アルベナの心に、今、見える光などなかった。
その翌日、アルベナは自ら命を絶った。
◆
アルベナの死を誰よりも悲しんだ彼女の兄は、彼女を傷つけた男であるオーディアを絶対に許さないと誓った。
そしてある夜、オーディアを捕まえるべく、彼の家へ向かう。
「あぁ~、もう、やめてぇ~」
「いいだろ」
「何それ、テンプレセリフねぇ~。んもぅ、もっとぉ、ちゃんと考えた言葉を言ってぇ~」
その晩はオーディアの両親は仕事でいなかった。
そのため彼は客室にて女性と堂々といちゃついていた。
「こっちへおいでよ」
「はぁ~い」
「可愛がってあげるね」
オーディアは豚のような大きな鼻を持つ女性を全力で愛していた。
こんな男に妹を奪われた。
アルベナの兄はより一層決意を固める。
そして、客用のソファを濡らしながらいちゃつく二人のところへ行き、二人まとめて捕まえた。
本来オーディアだけを狙うつもりだったのだが、女性が意外と抵抗したので彼女もついでに捕まえることに変えたのだった。
「オーディア、お前を許さない」
「な、なななな、何をするつもりで……」
手足を縛られたオーディアは怯えきっている。
「お前はアルベナとの婚約を破棄したのだろう?」
「そ、それは、そう、だけども……」
「婚約破棄したことを自慢していたそうだな」
「あっ、ああああ、あれっ、は……その……ちょっとした、冗談感覚で、本気では……」
だが、何を見ようが、アルベナの兄の心は変わらない。
「我が妹はお前のせいで絶望して死んだ。許さない。たとえこの身が滅ぶとしても、だ。お前だけは地獄へ連れていってやる」
◆
女性は数日で落命した。
抵抗しようと暴れた時に転倒し頭を打ってそのまま逝ってしまった。
彼女はまだしも幸せだった。
一方、オーディアは、すぐには死ねなかった。
彼への恨みを晴らすための拷問のような行為を受け続け、最初は死を恐れていたのが自ら生を終えたいと訴えるまでになっていった。
だが死なせてはもらえない。
「早くぅぅぅぅぅぅ……終わらせてぇぇぇぇぇぇ……」
「まだだ」
「もうぅぅぅぅ……辛いよぉぉぉぉぉ……」
「アルベナを自ら死なせておいてそのようなことを言うとは、愚かな」
オーディアは傷だらけの顔面をよだれ鼻水涙でぐちゃぐちゃにしながら死を望む。
しかし聞き入れてはもらえない。
「生涯ここで苦しめ」
で、結局、オーディアは数十年にわたって地下室に拘束され痛めつけられ続けた。
◆終わり◆




