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特別な血を引く私はわがまま放題な王子と結婚させられるところでしたが、婚約破棄されるという形で奇跡的に逃れることができました。

 この国を代々守ってきた『光の騎士』と呼ばれる英雄の血、私はそれを引いている。


 それゆえ私は一般女性とは異なる扱いをされてきた。


 この国において、その血筋は尊いものとされている。そのため、この血を引く者は、女性であっても自分の人生を自由に選ぶことはできない。平民であれば比較的自由のあるこの国でも、その血を引いていると国王の名に管理されるのである。


 そして私も婚約者を強制的に決められた。


 相手は国王の息子、ダブルストン王子。


 だが彼には問題があった。


 彼は甘やかされて育ったためかわがままであり、他の人の意見はほとんど聞かない人物だ。父でもある国王でさえ、舐められきっていることもあって、彼を完全に操ることはできていない。


 さらに、彼は、女遊びが大好きだ。


 しかも彼には女性が集まってくる。

 もちろんお金があるからである。


「あーんな女が婚約者だなんて納得できないわぁ」

「可愛くないのにねぇ」

「例の血筋だからその位に据えられただけでしょ? クソよね~」


 私が彼の婚約者となった時には、彼の取り巻きの女性たちからはよくそんな悪口を言われた。


 酷いものだ。

 私だって望んでここへ来たわけではないというのに。



 ◆



 その日、ダブルストン王子から呼び出しを受け、指定されていた場所である彼の部屋へ向かった。


 するとそこには王子と女性数名がいた。


「来たね」

「はい」

「待っていたよ、遅かったね」


 女性たちは羽毛がついた派手な扇でわざとらしく口もとを隠しながらクスクスと笑みをこぼす。


「ご用は何でしょうか?」

「君との婚約に関する話だよ」


 まさか……と思っていると。


「婚約、破棄することにしたから」


 やはりそうだった。

 私の予感は当たっていた。


 ま、こちらとしてはそれでも構わないのだけれど。


「婚約破棄、ですか。ですが、良いのですか? お父様にはもう伝えられたのですか?」


 そう返すと、彼は大きく口を開けて「あっはははは!!」と笑った。


「父? そんなの関係ないよ。どうせ父は僕に強く出られないんだ、あんなのは雑魚だよ。そんなやり方で僕を繋ぎとめられると思ったのかい? だとしたら君はかなり馬鹿だね!」


 女性たちはまだこちらを見ながらクスクス笑っている。


 この部屋の空気、最悪だ。


「そうですね。では、私はこれで。失礼しますね」

「ああ! そうしてくれよ!」


 取り敢えずダブルストン王子の前から去る。


 彼がそれを望んだのだ。

 私を責められる者はいない。


 その後、城内の自室へ一旦帰ると、荷物をまとめる。片付けをしていたら侍女に驚かれてしまったが、事情を話すだけにとどめた。そして、今まで世話になった侍女には礼を言い、部屋を出る。


「お待ちください! どこへ行かれるのです!」


 途中、見張りの者に引き留められるが。


「私はもうここにいる必要などありません」

「え? え? あの、どうしてですか!?」


 どうやら婚約破棄については知らないらしい。


「私、ダブルストン王子より婚約破棄を言い渡されました。なので、もうこれで城から去ります」

「え、え、えええ……」

「そちらとしても、元婚約者にいつまでも居座られては困るでしょう? なので私は速やかに出ていくのです。ということで、さようなら」


 彼はこれからも今までそうしてきたようにわがまま放題で暮らせばいい。


 好きなことばかりして、王子の責任は果たさず、王族としての仕事はさぼり、女遊びだけは全力で……それでいい。


 私を巻き込まないのなら、それで構わない。



 ◆



 その後、城を出た私は、ちょっとした出会いから隣国の王子と結ばれることとなった。


 最初旅館で知り合った時には彼が王子だとは知らなかったのだけれど、交流するうちに明らかになった。一応驚きはしたが、それでも、だからといって彼への気持ちが変わることはなく。私の彼への感情は決して変わらなかった。


 それに、お互い様なのだ。


 私だって『光の騎士』と呼ばれる英雄の血筋の者だから。


 私も彼も一般人ではなかった。

 でも、だからこそ、互いに理解し合える部分もあって。


「我が国に来てくれないだろうか」

「……! ……嬉しいです」

「本当か!? 良かったぁぁぁぁぁ」

「凄い息の吐き出し方ですね」


 そんな風にやり取りをして、彼と共に生きてゆくこととなった。


 生まれ育った国から出ていくというのは勇気がいることではあるけれど、正直そこまで抵抗はなかった。私は国をそこまで愛していなかったからかもしれない。出ていくことが定めならそれでもいい、私にはその程度の思いしかなかった。



 ◆



 隣国の王子との結婚以降、私が母国へ帰ることはなかった。

 けれども、第二の母国とも言えるこの地にて、私は彼と幸せに暮らせている。


「今夜、お茶しないか?」

「いいですね」

「ではよろしく」

「はい」


 夫との関係は良好。

 これからもこんな風に生きていきたい。


 この国の生まれではないけれど、この国のために生きるという思いは確かなもの。


 この国のため。

 この国の人々のため。


 私はこれからも生きてゆく。


 ちなみに、私がかつていたあの国はというと、王族への不満を募らせた国民と軍が手を組んだことでひっくり返ったそうだ。


 聞いた話によれば、私が去った少し後から国は王族の独裁的な方向に進んでいきつつあったようで。自由が失われてゆくことに皆が不満を抱いていたようだ。で、その怒りがついに爆発したことで、国はひっくり返ることとなったようである。


 ちなみに、怒りが爆発するきっかけとなったのは、ダブルストン王子による国の金の無駄遣いが発覚したことだろうだ。


 彼は取り巻きの女性に国の金を流していたらしい……。


 だが、そんな彼も、今や牢の中。

 もうずっと牢から出られず、平民よりも残念な生活を強いられているそうだ。


 一日の食事は一回だけ。風呂は一週間に一回あるかないか。睡眠時間は一日二時間までしか与えられず、労働を強制される時間は一日十八時間以上。


 そんな生活をさせられ続けた彼は、身も心もぼろぼろだそうだ。



◆終わり◆

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