地味と言われ婚約破棄されました。が、そのおかげで新しい道が拓けたので、ある意味良かったのかもしれないですね。
その日、婚約者カーレインは宣言した。
「貴様との婚約、本日をもって破棄とする!」
彼との始まりは恋愛からではなく家同士の決定。でも私は彼を愛していた。婚約者同士となってから、彼はいつも優しく面白く接してくれて。最初は特に何も思っていなかったのだが、次第に惹かれ、いつしか彼は私の特別な人になっていったのだ。
「そ、そんな……どうして……」
「貴様のような地味女と結婚するなど人生を一回無駄にするようなものだ。俺はそんなこと納得できん。俺は常に最高の人生であると納得していたいのだ」
地味女、て。
まぁ確かに派手ではないかもしれない。
年頃の女性の中には己の身を飾ることのためだけに生きているような人も少なくない。
そういう人と比べれば地味と言われても仕方ないのかもしれないとは思う。
「ま、なんにせよ、そういうことだ。……ではな」
ショックを受け硬直してしまった私のことは放置して、彼は去っていった。
見慣れた彼の家の一室。
残されたのは私一人。
音はなく、ただ、そこにあるのは悲しみだけであった。
◆
その後実家へ戻った私は自室にいる時間が増えたこともあり蜘蛛の研究をするようになった。
きっかけは自室の壁に蜘蛛がいたこと。することは特になく出掛ける場所もなく退屈だった私は、いつしかそれを飼い始めて。そうして触れ合い詳しく知るたび、良いところが見えてきた。で、自然な流れとして惚れ込んでいったのだ。
それからはずっと蜘蛛に関する研究をしている。
もっとも、個人的に、だが。
◆
数年後、私は蜘蛛の研究で成果を挙げ、この国で一人目となる女性蜘蛛研究家となった。
最初のうちは「家で研究しているだけなんて研究とは言えない」「女に蜘蛛の研究などできるものか」などと批判的な意見もあった。
が、今ではもうかなり認められている。
当初に比べると批判的な意見も減ったように思う。
私は今とても楽しい。
恋はなくても。
結婚はしなくても。
それでも日々幸福を感じている。
そうそう、私を切り捨てたカーレインだが、彼はあの後超絶ぶりっこ女と結婚したらしい。
だが幸せにはなれなかったようだ。
というのも、両親や姉らからの反対を無理に押しきっての結婚だったようで。
カーレインは遺産狙い丸出しのぶりっこ女と無理矢理結婚したことで親族らから嫌われ、しまいには親から勘当を言い渡されたそうだ。
今、カーレインとぶりっこ女は、生まれ育った地から離れ、低賃金な仕事に就いているそうだ。その仕事というのは、周囲から穢らわしいと言われるような職だとか。さらに、十数時間働いても二食分くらいにしかならないのだそうだ。
もっとも、そんなことは私には無関係なのだけれど。
なんにせよ、私はこれからも蜘蛛の研究に身を捧げるだけだ。
◆終わり◆




