君なんてもう要らない、その言葉は繰り返され続け……。~私は死んでもいずれ復讐は果たされる~
「君との婚約は破棄とする」
夕暮れの空。
赤と青が混じり合うそれの下で、婚約者から告げられる。
「君なんてもう要らないよ」
そうか。
私は必要とされていないのか。
「……そうですね、分かりました」
無理して面に浮かべる笑み。
私はどこまでも愚かだ。
傷ついていることさえ隠そうとして。
本当のことを言ってしまえば良かった。どうせ終わるのだから。せめて本当の言葉を吐き出して終われば良かったのに、それすらできず。弱みを見せる勇気を持たなかった私は、最後まで笑って、馬鹿みたいに無理し続けてしまった。
「今までありがとうございました、さようなら」
「あぁ」
こうして終わりゆく彼との時間。
もう戻らない。
共に生きた日々は。
◆
夕暮れの空の下で思う。
どうすればいいの、と。
私にはもう道が見えない。
抱くべき希望も見つけられない。
そしてその日、衝動的に、崖から飛び降りた。
書き置きは飛び降りた地点に遺す。
誰の目にも触れないまま終わるかもしれないけれど。
もしそうなったならそれはそれで良い。
結局、終わりの瞬間まで響いていた。
動きがとまりかけている脳内では何度も繰り返されていた。
『君なんてもう要らないよ』
彼が発した、その言葉が。
◆
彼女の死後、彼女の婚約者であった男性は彼女の母親の手で殺められた。
母親は強かった。
子を絶望させられ、子を奪われた、それを許しはしなかった。
たとえその手が血に濡れようとも。
母親は復讐を果たしたのであった。
◆終わり◆




