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婚約破棄、そして悲劇。
「マリエラ、君との婚約を破棄したい」
そう告げられた時、私の中の何かが解き放たれた気がした。
それは、私の中に棲む、私ではない何か。
人であるかさえ分からない。
得たいの知れない蠢くもの。
それが私を突き動かす。
私はたまたま近くにあった鉄の棒で目の前の彼を殴り終わらせた。
倒れた彼はもう動かない。
それを見下ろして。
ようやく悟る、己がしたことを。
溢れる涙。
これは一体どういう涙……?
彼が亡くなった悲しみとは少し違う。
安堵感に似たものもあり。
しかしながら死を嘆く感情からかけはなれているわけでもなく。
「あなたを愛していました。……さようなら」
その後私は屋敷の三階から身を投げた。
こうして終わる私という物語。
二人の死。
その後には何も遺らない。
◆終わり◆




