良いのは顔だけで可愛さはなく忠実さもないクズ、と言われ、婚約を破棄されました。~最後に幸せを掴むのはどちらでしょうね~
「アリア・オーフェン! 貴様は良いのは顔だけで可愛さはなく忠実さもないクズだ! よって、婚約は破棄とする!」
私の婚約者であるオブリオは街中の人通りの場所にてそう宣言した。
「あの……顔が良いから婚約したのではなかったのですか?」
婚約が決まった日、彼はそう言っていた。
お前の顔面なら俺に相応しい、と。
「くだらぬ嘘を口にするな!」
声を荒くするオブリオ。
「ですが、婚約を決めた日、そう仰っていましたよね?」
「知るか! 俺はそのようなこと一度も言っていない!」
「……本気で仰っていますか?」
「あぁ、当然だ。俺は本当のことしか言わない」
私は上着のポケットから小型録音機を取り出す。
これは録音魔法を使って製造された音を記録することのできる機械。この中には、婚約の日に彼が言った言葉も記録されている。
「ではこれでも本当と言えますか?」
再生ボタンを押す。
『これまでなかなか良い相手が見つからなくてな。だが、お前の顔面なら俺に相応しい。お前なら素晴らしく整った容姿の俺の隣にいても不自然ではないだろう』
録音した音声が流れる。
周囲にいた人たちはくすくすと笑った。
「もう一度お尋ねしますが、先ほどの主張を変える気はありませんか? ……ありませんよね?」
にやりと笑みを浮かべて彼を見ると。
「う、うるさい! どうでもいいだろ、そんなこと! とっ、とにかく、そういうことだからな! 婚約は破棄するんだっ!」
彼はそう吐き捨てて走り去っていった。
半泣きだった。
……あー、おもしろ。
◆
オブリオとの婚約者同士という関係は終わりを迎えてしまったが、数ヶ月後にとあるパーティーに参加した際に出会いがあった。
で、その時に出会った男性オックと、私は結ばれた。
彼と結ばれることになるとは最初は思っていなかったのだけれど。喋っているうちに同じ楽器の演奏が得意であるという共通点が見つかって。そこから私たちは一気に仲良しになっていった。で、気づけば互いに夫婦となる道を選んでいたのだ。
彼とは同じ趣味を持っているし価値観が似ている。
きっと上手く生きてゆけるだろう。
ちなみにオブリオは……あの後とても可愛らしく忠実な女性に擦り寄られて気分を良くし出会って三時間ほどで彼女との結婚を決めたが、彼女は実は詐欺師だったようで、資産を奪われてしまうこととなってしまったそうだ。
また、オブリオはこっそり彼女に対して高額な物品を貢いでいたらしく、そのことで親と大喧嘩になって。
女性には奪われたうえ逃げられ。
親からは縁を切られて。
気づけばオブリオは独りになってしまっていたそうである。
その後彼がどうなったかを知る者はいないそうだ。
◆
あれから四十年。
私はもうかなり年を重ねたが、今も夫であるオックとは仲が良い。
子どももとうに成人し、結婚して、子も誕生して。
私たち夫婦は孫にも恵まれた。
小さい子というのは何かと世話が焼けるけれど、それでも孫はとても可愛く感じられる。
◆終わり◆




