大いなる力を持って生まれた私は母を侮辱されたことが許せなくて力を使ってしまいました。~そして国の守護神となる~
私は生まれつき凄まじい魔力を持っていた。
けれどもそれを使ってはこなかった。
なぜなら、そのようなことをしたら周りが怯えてしまうからだ。
幼い頃、大好きだった母に言われた言葉。
『その力を使っては駄目よ、皆を怯えさせてしまうからね』
私はその言葉を大切に守ってきた。
大好きな今は亡き母の言葉。
それは絶対だ。
あの人が言ったことに逆らうことなんてない。
そう思っていたのだけれど。
「お前ってさぁ、ほーんとクソだよな。クソって意味分かるか? あ、無理か。脳になーんにも詰まってねーんだもんな。ばーかばーか。お前がそんなんじゃ、親もきっとクソしかねーんだろーな。特におかんな。お前のおかんなんて、どーせ、生きてても酸素無駄遣いするだけの迷惑かけマシーンだったんだろーなぁ」
婚約者アブリルからそう言われた時、私は耐えられなくなった。
人間の我慢には限界がある。
ありとあらゆる物事を許せる者などいない。
これまで、彼や彼の親や侍女から色々意地悪されてきたけれど、それにはずっと静かに耐えてきた。
でも母を馬鹿にされては黙っていられない。
もう我慢できない。
これ以上耐えることはできない。
私にだって感情の波はあるのだ。
「……ない」
「はぁー!? 今なーんてぇー? 何か言いましたぁー?」
母には後で謝ろうと思う。
「私はもう、あなたを許せない!!」
両手を開く。
指先から溢れる炎に似た青い輝き。
「婚約は破棄します!!」
魔力のみならず腕力でも何でもそうだが、力ある者には責任も伴う。それがなければ力ある者が周囲を蹂躙できてしまうから。何でもありの世界になってしまうから。
それは分かっているけれど。
でも、尊厳を踏みにじられ続けて耐えられるかというと、そうではない。
私にだって人格はある。
私にだって心もある。
「さようなら!!」
私は生まれて初めて本気で魔法を使った。
手から溢れ出した炎に似たエネルギーは、あっという間に辺りを熱で包み込み、すべてを灰にした。この凄まじい魔力の前では、人間も物体も大きいも小さいも無関係。この魔力は、我が魔法は、何もかもを焼き尽くすのだ。
その後私は犯罪者として牢に入れられた。
しかし、アブリルらが彼の婚約者である私を虐めていた証拠や証言が多くあがってきたことで、減刑された。
何をされるでもなく牢から出られた私は、多くの魔法士が所属する部隊に入り、そこで国を護るために働くことを選んだ。
償いのためだ。
本当はあの力を使うべきではなかった。
でも我慢できず。
忍耐力不足で使ってしまった。
母を貶めたアブリルを終わらせたことを後悔はしていないけれど、少しは償いたくて、国のため生きることを選んだのである。
◆
それから数年。
私はその強大な魔力ゆえに民から『国の守護神』と呼ばれるようになっていった。
多くの国民は私に良い感情を抱いてくれているようで。
私を受け入れてくれる彼ら彼女らの笑顔を見るたびに、強く、もっと頑張ろうと思えた。
そういえば、ここ数年やたらと婚約希望者が現れるのだが、今のところすべて断っている。なぜなら、国を護ることこそが私の道だからである。
◆終わり◆




