婚約破棄を告げられた翌日、彼の身に謎の現象が起こったようです。~話を聞くだけでもちょっぴり怖いです~
「君のそのくるくるした髪、やはり我慢ならん! そんな女を妻にして子に遺伝したらと思うと……今からおかしくなりそうだ! よって、君との婚約は破棄とする! こんな形だけに近い関係、喜んでぶちこわしてやるさ」
いつもたばこ臭を放っている婚約者アンドレリウスはある日突然そんなことを言ってきた。
彼が遺伝うんぬんと言うのはいつものこと。
他人を悪く言う時には彼は大概そういう表現をするのだ。
それゆえ、そう言われたことに関してはそれほど驚かない。
ただ、彼は頑固なところがあるので、一度自ら決めてその気になればその決定は絶対に変えない。
つまり、婚約破棄されるしかない、ということだ。
説得など無理。
するだけ時間の無駄。
「そうですか……はい、分かりました。それでは、私は、ここから去れば良いのですね?」
「分かっているなら早く動け早く去れ」
「承知しました。今までありがとうございました。それでは、さようなら」
「はっ。礼なんか言わねぇ」
◆
翌日、アンドレリウスの親から私の親に連絡があり、それによって『アンドレリウスの胃が消滅した』という事実を知った。
連絡自体は息子が勝手に婚約を破棄したことへの謝罪の意味があったようだが、喋っているうちにそういう話になっていったようで、話の流れに乗って向こうの親がそのことを明かしたようだった。
胃が消滅した、か。
なかなか恐ろしい。
手足であればまだ代わりのものを用意することもできるだろうが、胃を失ったとなればそうはいかない。最先端技術を使えばどうにかできるのかもしれないが、そうするとなればかなりの費用がかかるだろうし。
あぁ、恐ろしい。
◆
数ヶ月後、私と結婚することを望んでくれる男性が現れたので、私はその人と婚約した。
今度こそ上手くやる。
そう決意している。
もう同じような失敗をしないで済むよう、後から最初に容姿に関して文句を言わないように、という約束をしておいた。
今回はあんな風にはならないはず。
今度こそ絶対幸せになってやる。
ちなみにアンドレリウスは、胃が消えてから数カ月も絶たないうちに亡くなったようだった。
◆終わり◆




