婚約破棄されてしまいましたが、数年後の出会いによってのんびり紅茶を飲んで暮らせるようになりました。
「あらぁ~、貴女が婚約者さんなのぉ? だっさ~い。アルク様を満足させられないの分かるわぁ~」
婚約者アルクから呼び出されたと思ったら、彼と一緒にいた女性にいきなりそんなことを言われてしまった。
まるで突然攻撃を仕掛けられたかのよう。不快感しかない。
「悪いな、急に」
アルクは真剣な面持ちでいる。
「いえ」
「で、早速話に入るのだが」
「はい」
「君との婚約を破棄することにした」
アルクは落ち着いた声で言った。
そういうこと、か。
何となく予想してはいたけれど、でも、まさか本当にそうだったとは。
この場に女性がいること自体不穏ではあったけれど、それでも、婚約破棄とまではっきり言われたのは正直驚きである。
婚約とは契約。
それをここまで平然と破棄するとは、なかなかの感性の持ち主である。
「あぁ~んアルク様ぁ~、はっきり言いきれる感性が素晴らしいわ~」
「はは。はっきり言ってやるのが優しさだからね」
「いやぁ~ん好きぃ~紳士ぃ~」
ということで、と、彼は続ける。
「本日をもって関係は解消とする。二度と俺の前に現れないでくれ」
アルクは私の感情など一切考慮していなかった。
◆
数年後、私は、とある山登り会に参加している時に知り合った金持ちの男性と結ばれた。
こんな風になるとは思っていなかったけれど。
でも悪くはない。
想定していなかったけれど、これはそこそこ良い人生だと思う。
今はこの人生に満足している。
昼間から美味しい紅茶を飲めるこの生活は快適だ。
一方アルクらはというと、結婚後女性に多額の借金があったことが発覚して大揉めになり、家同士が喧嘩になってしまって最終的には離婚となったそうだ。
また、揉め事の果てに離婚したことによって周囲からの評判が下がってしまって。道を歩くだけでもひそひそ話をされるような状況に陥ってしまっアルクは、次第に外へ出ることが怖くなり、家から一歩も出られなくなってしまったそうだ。
とはいえ私には無関係である。
私は今日も穏やかな一日を堪能する。
◆終わり◆




