薬草の研究をする女など気味が悪い、と言われ、婚約を破棄されました。~それでも私は歩む道を変えない~
「おまえ、いっつもいっつも薬草とか研究して、気味わりーんだよ」
私は薬屋の娘だ。
幼い頃から薬草に囲まれて育ってきた。
それゆえそういうものへの心理的抵抗はほぼなくて。
薬草というものを気味悪く思う者がいるとは夢にも思わなかったのだ。
しかしそういう者は存在した。
婚約者ルテンがそうだったのだ。
「なんか青くせーしよ、勘弁してくれよ。お前みたいな女を妻にするなんて吐くわ」
彼はどうしても私の研究を受け入れられないようであった。
「てことで、婚約は破棄な」
彼はさらりと言った。
「え、急ですね」
思わず本心が漏れてしまう。
「これまで我慢してやってたんだよ!! うるせーよ!!」
ルテンは苛立った様子。
こちらの返しが悪かったのだろうか。
「そうですか」
「あぁそうだよ! まだ優しいだろ?」
「そうですね」
「じゃ! とっとと荷物まとめて出ていけ!」
一方的だなぁ……と思いつつも、私は、彼が言うことに従うことにした。
「二度とここへ来るなよ!」
できれば彼にも薬草の良さを分かってほしかった。薬草は人を癒やし救うものなのだと知ってほしかった。怖いものではない、呪いに使うものではない、怪しいものではない。時に毒となることがある点は注意しなくてはならないにしても、悪人が使わない限り、知識ある者が使う限り、人に害を与えるようなものではない。それを知ってほしかった。そしてその力を有効活用してくれればと思っていた。
でも無理だった。
私はルテンに薬草の本当の力を伝えられなかった。
それだけは悔しい。
とはいえ、こうなってしまったものは仕方ないので、ここからは速やかに去ることとしよう。
◆
その後、私は、実家へと戻った。
両親は事情を聞く前から私を温かく迎え入れてくれた。
以降はより一層薬草研究に力を注ぐようになってゆく。
私自身の研究はもちろん、父が行っている栽培や研究にも協力するようになっていった。
そして数年後、私は、不治の病とされていたとある病を治癒させることに成功。
あっという間に有名人となった。
今は国王から与えられた研究施設にて日々薬草の研究に励んでいる。
ここには様々な設備があるので困ることは滅多にない。
そんな風にして充実した日々を堪能できている私だが、それとは逆に、ルテンは病気で落命したそうだ。
ある時彼は風邪になった。
しかし治療を拒み。
薬を飲むことさえも拒んだ。
そうしているうちに身体が弱っていってしまい、そのまま命を落とすところまでいってしまったようだ。
むきにならず薬を飲んでいれば助かったかもしれないのに……。
少し素直になって薬に頼ってみたら良かったのに……。
◆
数年後、私は、研究所で共に働いていた男性と結婚した。
もちろん薬草の研究は継続している。
これは生涯続けていくと思う。
◆終わり◆
 




