婚約破棄されたと言って自宅へ帰ると呪術使いの妹が怒りました。~どうなっても私は知りませんよ~
「急でごめんだけど、君との婚約は破棄するよ」
その日、オクトレスはそう告げてきた。
さらに。
「君には華やかさがないんだよね。そんなじゃ女性としてダメダメだよ。だってさ、女性の良いところって華やかかどうかだけでしょ? そこが欠けている女性なんて、生きてる意味がないよね。ま、じゃ、そういうことなんで。ばいば~い」
わざわざご丁寧にそんなことまで付け加えてくれた。
なぜそこまで言われなくてはならないのか?
思いつつも、何か言い返すことはできず、私は婚約破棄を受け入れるしかなかった。
もやもやしながらも自宅へ帰る。
この国では女性の立場というのはあまり強くない。だから、男性から婚約破棄と言われてしまうと、女性側はどうしようもない。今回もその良い例だ。女性側は基本的に何でも受け入れるしかない。
「ってことで、婚約は破棄になってしまいました」
帰宅して両親と妹の前でそう話すと。
「なんだとぉ!? さいっていな男だナ!」
「酷いわね」
両親は不快感を露わにした。
だが。
「……許せない」
一番怒っていたのは妹だった。
彼女は静かな人だ。
でも感情はある。
「そんな人……痛い目に遭えばいいのに」
妹は私よりも怒っているようで、その赤い瞳を怒りに燃やしていた。
で、その後どうなったかというと、妹はお得意の呪術を使った。
「姉さんの仇はわたしが討つから」
彼女はそう言っていたのだけれど。
本当にその通りのことをした。
妹の呪術はかなり効果がある。
これは後に知ったのだが、妹が呪術を使った数日後オクトレスは急に体調を崩したようだ。最初は風邪のような症状で。しかし、次第に全身の酷い腫れに見舞われ、歩くこともできなくなって。彼はあっという間に自立した生活をできなくなってしまったよう。しかも、医師に診てもらっても原因不明。原因は分からぬまま時が過ぎてゆき、次第に衰弱していったオクトレス。彼は、発症から一ヶ月ほどで、息を引き取ったらしい。
思ったより早く訪れた彼の死に、彼の両親は酷く悲しんでいた。
それはそうだろう。
実の息子が亡くなれば、誰だって悲しいだろうし涙も出るだろう。
◆
あれから一年ほどが過ぎ、私は、オクトレスではない男性と婚約した。
彼はこの国の首都で舞台俳優をしている男性。
私より二つだけ年上。
妹と二人で首都へ出掛けた時、たまたま立ち寄った古ぼけた劇場にて出会った。
私たちの出会いは運命であったかのようで。
二人は一瞬で惹かれ合った。
今は明るい未来を見つめることができる。
行く道の先に光を信じることができる。
ちなみに妹はというと、数ヶ月前から、得意の呪術を使って人のために働く便利屋として活動し始めた。
◆終わり◆




