怪しい術って……ただの魔法ですよ? それで婚約破棄とは無知を晒しているようなものですね。~そして溺愛されることとなる~
「君のような怪しい術を使う悪しき女を歴史ある我が家に入れることはできない! ……と母が言っていた。よって! 君との婚約は破棄とする!!」
その日、灰色の髪の婚約者オールグレーは、きっぱりとそう言い放ってきた。
怪しい術をうんぬんというのは多分私が魔法を使えるということを言っているのだろう。確かに私は魔法が使えるけれど、それを悪用してはいないし迷惑もかけていない。にもかかわらず悪みたいに言うというのは、知識不足ゆえだと思う。
魔法に関する知識をまともに持っている者であれば、普通そんなことは言わない。
「婚約破棄。本気で仰っているのですか?」
「もちろん! ……母が言うんだからその方がいいんだ」
「分かりました。では、私はこれで失礼しますね」
一礼して、彼の前から去った。
悪と言われてまで彼と生きていく気はない。
そんなではお互い幸せになれない、ならば、早めに離れる方が良いだろう。
その日の夜空はとても美しかった。
まるで婚約破棄を祝福してくれているかのような煌めきのある星空だった。
◆
その後私は魔法騎士団に入ることを決めた。
魔法騎士団の幹部に父の知り合いがいたからである。
私が婚約破棄されたことを知ったその幹部の男性は、魔法騎士団に入らないか、と誘ってくれて。その時の私は何もかもどうでもいい気持ちになっていた部分があって、すぐに入りますと返事をしてしまった。
いざ魔法騎士団に入ると、驚きと苦労がたくさんあった。
まず周りが男性ばかりということ。
これはあまり知らなかったので驚いた。
そして、男性たちと同じ訓練をしなくてはならないというところにも、かなり苦労した。
魔法の才能には性別は関係がない。そのため、魔法関連の訓練に関してはさほど困らなかった。私がやってきたことを活かす、ただそれだけのことだった。
しかし体力を使う訓練に関してはかなり苦労した。
なんせ周りとは体力が違う。
男女差もある。
それに加えて、そもそも私は女性の中でも体力があるほうではない。
そんな私が訓練についていくのは大変だった。
ただ、幸い、魔法の面では活躍できて。
周りにも温かく接してもらうことができた。
私は次第に魔法騎士団に馴染んでいく。
◆
それから数年、魔法騎士団で働いていた私はある宴で出会ったことをきっかけに若き国王に気に入られ、やがて彼と結ばれることとなった。
慣れた魔法騎士団にいたかったので最初のうちは断っていたのだけれど、逃げきることはできなかった。
相手が国王なので仕方ないとも言えるのだが……。
「君が僕のところに来てくれて嬉しいよ」
「これからよろしくお願いいたします」
「いやぁ、これなかなか。冷ややかだね。驚いたよ」
「すみません」
「いやいや! そういうクールなところが好きなんだ」
魔法騎士団から国王のもとへ。
私の人生はよく分からない。
その後、私は国王に可愛がられ、大切に扱われるようになった。
たまに魔法で戦いたくなってうずうずしてしまうが……まぁ、それは、今は必要ないものだから忘れよう。
「この前言っていたお花、持ってきたよ」
「あ、本当ですね」
「どう? 綺麗?」
「思っていたより小さな花ですが、可愛いです。ありがとうございます」
彼はいつも私を楽しませようとしてくれる。
毎日のように何かを持ってきて見せてくれるのだ。
「これ、噂の硝子細工」
「綺麗……!」
彼の配慮には感謝しかない。
「君にあげるよ」
「えっ」
「貰ってくれるかい?」
「え、あの、えとと……いいんですか……?」
「もちろん!」
「やった! 嬉しいです、ありがとうございます」
私はこれからも彼と共に生きてゆくだろう。
その道の先には光があるはずだ。
「虹色に光って……綺麗ですよね、この硝子細工」
「分かる!?」
「はい、もちろん分かります」
「理解があって嬉しいなぁ」
ちなみに元婚約者のオールグレーはというと。
私が国王の妻になるや否や、嘘ばかりの悪口を並べ言い触らそうとした。
が、それにより王妃を侮辱した罪で拘束されて。
罰として鞭打ち五百回をされた後に、一族まとめて処刑された。
◆終わり◆




