婚約破棄された令嬢は武人となる。~きっともう誰も私が私であると気づかないでしょう~
エルフィ・マドレーヌは美しく長い金の髪を持つ良家の娘であった。
彼女は天使のように心優しく。
いつも微笑んでいて。
多くの者から愛されて育ってきた。
だが、稀ながら彼女を愛さない者もいた。
それは彼女の婚約者。
オベロン、彼だけは、エルフィを愛さなかった。
「こう言うのは心苦しいが……君との婚約は破棄とする」
その日、オベロンは、一人の女性を連れてエルフィの前に現れた。そして、連れてきた女性を抱えるように大事そうにしてみせながら、婚約破棄を告げた。
「わたしは彼女だけを愛している。よって、エルフィ、たとえ家同士の取り決めであるとしても君と生きる気はない」
言われたエルフィは悲しげに微笑んでそれを受け入れた。
「そうですね。愛する方と結ばれるべきです」
彼女はそう返した。
だが彼女は大層悲しんでいて。
人前では切なそうにする程度であったが、誰もいないところでは涙を流していた。
◆
婚約破棄から一週間、エルフィは行方不明となった。
両親は必死になって捜索するが見つからず。近所の人や治安維持組織が協力してもなお発見には至らなかった。
だがその頃、エルフィは別人として生きていた。
自宅を去った彼女は髪も切り別人のように振る舞っていたのだ。
そして国防軍に加入。
そこで訓練に打ち込んでいた。
女性はそれほど多くない組織の中でも彼女は日々努力を重ねていた。
◆
数年後。
戦争が起こり、一人の女性兵士の存在が有名になる。
その女性兵士はエルフィであった。
ただ、容姿は変わり振る舞い方も異なっていたために、誰もその人が彼女であるとは気づかない。
母親以外は。
母親は女性兵士がエルフィではないかと考えた。が、周囲にはあり得ないと一蹴されてしまう。しかし母親は諦めず。自ら旅立ち、英雄となっている女性兵士に会いに行った。
「貴女はエルフィではないの?」
母親が問うと。
「……すみません」
女性兵士はそれだけしか答えなかった。
◆
終戦後、国防の英雄として敬われていた女性兵士は、ある日突然エルフィの実家へやって来た。
「ただいま、母さん」
「え……」
その家にいるのはエルフィの母親だけ。
そう、父親はもう亡くなったのだ。
「私、エルフィよ」
「あ……」
「もう一度……エルフィとして生きてみようかと思って」
抱き合う二人。
「やっぱり……間違いでは、なかった……」
「気づいてくれてありがとう」
以降、二人は同じ屋根の下で暮らした。
ちなみにオベロンは。
戦争の途中で家ごと壊されてしまって亡くなった。
結局誰とも結婚できないままの死だった。
◆終わり◆




