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婚約破棄、降り注ぐ雨が告げる始まり。
「君との関係はもう終わりにしたい」
婚約者はそう言った。
「婚約は破棄だ。ではさらば」
水晶をハンマーで砕いたかのように。
私が見ていた未来も粉々になった。
◆
帰り道、降り注ぐ雨。
冷たい。
雨粒が肌に触れるたび涼しげな感覚が抜けてゆく。
明るい未来なんて幻想でしかなかったの?
あぁ、胸がとても痛い。
考えるだけでも胸が痛む。
間違えなければ良かったのかと後悔する。
でも……悔いても意味がないことは知っている。
この複雑な色。
何と言えば良いのだろう。
しかし。
「あのー、すみません」
婚約破棄は終わりだけではなかった。
「え?」
「ハンカチ、落としましたよ」
「あ。すみません」
「濡れてますので気をつけて」
「あっ……はい、気をつけます、ありがとうございます」
落とし物から始まった関係。
彼が未来の夫であると、この時の私はまだ知らない。
◆終わり◆




