先の長くない命と言われたので婚約破棄されるものと思っていたのですが……。
夕暮れ時、私は、担当の医師から「先の長くない命だ」と告げられた。
私は一番に婚約者オーガニック・コットンにそのことを連絡した。
最も迷惑をかけるのは彼だろうと思ったからである。
その日はもう夜が近づいていたので眠った。
翌日、オーガニックが病室へやって来た。
「話は聞いたよ。そんなに状態が悪いのかい?」
「はい、実は。……申し訳ありません」
本当のことを告げてしまった。きっともう関係は続いていかないだろう。ここで終わってしまうだろう、婚約破棄を告げられてしまうに違いない。
だが。
「そうか。なら、最期まで、共に在ろう」
オーガニックは婚約破棄は口にしなかった。
「だが私は諦めない!」
「え」
「君を救う道を探す!!」
「ええ……」
彼は前向きだった。
この状況でも明るい未来を見据えているようであった。
「道はあるはずだ」
「そうでしょうか……」
「諦めるな! 最期まで! 死に抗うんだ!」
今日の彼はやたらと熱血系である。
「……婚約破棄しないでくださってありがとうございます」
「何だって? するわけないだろう」
「本当にありがとうございます。……救いです」
死が近い私を切り捨てなかった彼には感謝の気持ちしかない。
とはいえこの死に抗える気もせず。
きっと告げられた言葉の通り終わりへ近づいていくと思う。
でも、それでも、彼が近くにいてくれるなら悲しくはない。
たとえ長く生きられなくても。
たとえ子を持てなくても。
たとえこのまま終焉へ向かうだけだとしても。
それでも救いはある。
彼が傍にいてくれる限り。
「共に頑張ろう! 私も頑張るから!」
「あ、ありがとうございます……」
◆
あれから五年。
驚いたことに、私は今も生きている。
死を告げられて以降世界中の医師や薬屋と連絡を取るようになったオーガニックが万病を治すという高額な薬を買ってきて、私は恐る恐るそれを摂取した。すると驚いたことに身体の調子が良くなって。悪かった身体の状態は急激に改善し始めたのだ。
そして生き延びることができた。
「今日が何の日か覚えているか?」
「……夫婦になった日」
「そう! 正解! よく覚えてくれていたな」
回復した私は予定通り婚約者であったオーガニックと結婚し、今でも夫婦として彼と生きている。
「あぁ、君が助かって良かった。結婚してくれてありがとう」
「こちらこそ……あの薬を貰えて、助けてもらえて、本当に良かったわ」
私たちは幸せに生きてゆく。
どんな困難も、どんな山や谷も、彼とならば恐ろしくはない。
◆終わり◆




