どうしても好きになれないから婚約破棄? 分かりました。それでは私はこれで、失礼します。
数ヶ月前、私は、年の近い男性オーロレと婚約した。
しかし今日。
告げられてしまった。
「君との婚約だが、本日をもって解消するよ」
そんなことを。
「え……これまた急ですね」
正直意外だった。
私たちの関係に問題があるとは思えなかったから。
「そうだね、でも仕方ないんだ、もう我慢できなくなったんだ。婚約は破棄、いいね」
「待ってください。我慢できなくなった、とは、一体?」
「言わせるのかい? 傷ついても知らないよ。で、我慢できなくなったというのは、どうしても好きになれないということなんだ」
そう言ってから、オーロレはふへへほと変な笑い方をする。
「ま、そういうことだからさ。悪いけど、終わりとさせてもらうよ」
オーロレは鼻の穴を日頃の二倍くらいに広げつつはっきりとそう言った。
「お互い、自分に相応しい程度の相手と付き合っていく方が良いと思うんだ」
「そうですか。分かりました」
「分かってもらえて助かるよ」
どうやら彼と行く未来はなかったらしい。
「ま、大丈夫だよ。君にだって良い相手はいるさ。僕は君にはちょっと上過ぎたってだけで、君に合う人だっているから、安心していいよ」
いちいち感じ悪いなぁ……と思いつつも、その場で一礼。
「それでは私はこれで、失礼します」
見下されていることには不快感を抱かずにはいられないけれど、もう他人になるのなら関係ないことだ。縁はここまでなのならば、敢えて指摘することもない。無関係となるも同然なのだから。
今は彼のことばかり考えるのはやめよう。
嫌なことや不快なことに目を向けるのはやめて。
未来や希望に目を向けていこうと思う。
その方が精神的に良い方向へ進んでゆける。
◆
オーロレに婚約破棄を告げられた日から今日で一年と一ヶ月になる。
彼との縁はなかったけれど。
おかげで私は別の男性、それも王族に含まれている男性との縁を得ることができた。
彼は王族だが本家ではないためそこまで堅苦しくはない。ただ生活には余裕がある。そういう意味では、王子よりも良い存在かもしれない。
彼は心に余裕があるので、私を包み込むように接してくれる。
そのため彼といると非常に快適だ。
「これからもよろしくね」
「はい!」
私たちの新しい物語がもうすぐ始まる。
「一緒に幸せになろう」
「もちろんです」
いや、もう始まってはいるのだけれど。
ただ、本日をもって夫婦となるという意味では、今日は節目と言えるだろう。
ここから始まる二人の物語。
良い未来があることを願う。
◆
これは親から聞いたのだけれど。
オーロレはというと、あれから何人かの女性にプロポーズするも相手してもらえず、しまいにストーカーのような行為を繰り返すまでになって逮捕されたそうだ。
今は牢で寂しく冷えた飯を食べているらしい。
◆終わり◆




