婚約破棄? そうですか、私は要らないということですね。では……貴方の人生はここで終わりとなります。
「今日から婚約者同士として、どうぞよろしく」
「こちらこそ……!」
私と彼は婚約が決まった日にそう言葉を交わした。
私は彼が好き。
彼といる、それだけで、自然と心が綺麗になるようで。
四六時中彼のことを考えてしまいそうなくらい、彼の魅力という沼にはまりきっていた。
だが。
「悪いね、きみとの関係はここで終わりにするよ」
彼からそう告げられて。
視界が真っ暗になったような感覚。
本当は暗くなっていないのに。
驚くくらいの衝撃が脳を駆け抜けていった。
「そ……んな……」
全身、あらゆるところが震える。
きっと青ざめていると思う。
何もかもまともには考えられない。
「どうして……」
「きみを一番とは思えなくなったんだ」
彼ははっきりそう言いきった。
その頃になってようやく悟る。
ああ、私は彼の一番大事な人にはなれなかったんだ……と。
涙が溢れた。
視界が曇りきってしまう。
「ごめんね。じゃ、そういうことだから」
そうか、私はもう要らないんだ。
そのことを理解した時。
理性は吹き飛んで。
引き出しの中にある太いカッターナイフを取り出していた。
「なっ……何をするつもりなんだい……!?」
怯えたような声を出す彼。
「婚約破棄……。そうですか、では……私は要らないということですね」
膝から崩れかかっていたが何とか立ち上がることができた。
「危ないことを考えるのはやめてくれ!」
「では……」
「待て待て待て!」
「貴方の人生は、ここで……終わりとなります」
太いカッターナイフを彼に突き立てる。
彼が息絶えたのを確認し、その後、同じそれを私自身にも突き立てた。
たとえ愛されなくても。
これでもう彼と離れなくて済む。
私のための救いは、ここにあったのだ。
◆終わり◆




