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婚約破棄され、帰り道に気づくこの世界の美しさ。
「君のような女性とはもう生きていけない。婚約は破棄とさせてもらう」
婚約者からそう告げられた瞬間、すべてが終わったような気がした。
婚約破棄された帰り道。
前を見ることすらできず、一人、とぼとぼと歩く。
ふと、視界に一輪の花が入った。
整備された道の端でひっそりと咲くたったひとつの花。
瑞々しい葉と茎に、薄い黄色の花がついている。
それは誰にも気づかれないような地味さだけれども、そこにしっかりと佇んでいて。見る者に、静かな力強さを感じさせる。
あぁ、強く、美しい。
私もそんな風でありたい。
心からそう思う。
ようやく顔を上げることができた。
気づけば世界は美しかった。
青く澄んだどこまでも続くような空も、涼しげで爽やかな空気も、凛と佇む木々も。
そのすべてに凛々しい美しさがある。
そうだ、私もそんな風にあろう。
強く思う。
婚約破棄された、それが何だというのか。
人生は終わっていない。
まだ何も終わりはしないのだ。
◆終わり◆




