婚約者からは愛されませんでしたが、おかげで他の人から愛されることができました。
ある程度の年齢になれば誰かと婚約結婚し相手と共に協力しながら生きていく。
微笑み合って。
いろんなことがあっても共に乗り越えてゆく。
それが普通なのだと思っていた。
私の親はそうだったから。
でもそれは何も知らない私の幻想でしかなくて。
現実はそんなに甘いものではなかった。
「君との婚約だけど、本日をもって破棄とさせてもらうよ」
その日、婚約者ルートスから、そう宣言されてしまった。
一応理由を聞いてみると。
私のことを愛せない、ということだった。
ルートスは私を愛する妻としては見られないらしい。
「そう、ですか……分かりました」
「ごめんね」
「いえ……本当のことを言ってくださってありがとうございます」
たとえそれが辛いことだとしても。
嘘を並べられるよりかは本当のことを言ってもらえる方が良い。
その方がある意味すっきりはできる。
「今までありがとう。じゃ、これでね」
彼がそう言った時、私たちの関係は終わった。
それは、夏の終わりのようであった。
◆
婚約破棄され抱いていた夢を崩された私は、実家へ戻るも、すぐには立ち直れなかった。
ただただ胸が痛くて。
ある種の後悔ばかりが募ってゆく。
それでも、親の前でだけは明るく振る舞うようにした。
心配させたくなかったからだ。
私は愛されなかった。
その事実が何よりも辛くて。
でも、いつまでもうじうじしてはいられない。
前を向かなくては。
自分にそう言い聞かせる。
◆
それから数ヶ月。
ちょっとしたことから街へ出掛け、そこで、街の有力者の息子に出会った。
「君と話をしてみたい」
「はい、ぜひ」
彼に声をかけられた瞬間から、新しい道が拓けてゆく。
◆
私があれからどうなったかというと。
街の有力者の息子である彼と結婚した。
今は彼の魔物を育てる事業の手伝いをしつつそこそこ恵まれた環境で生活できている。
お金には困らない。
最近はちょっとした隙間時間に紅茶を飲むのも趣味となっている。
それもまた、恵まれた環境だからこそできることだ。
彼に出会う前はそんな風になるとは思っていなかったけれど、こういう暮らしも悪くはない。
そうそう、そういえば。
ルートスはあの後山を散歩していた時に熊に似た魔物に襲われ死にかけたそうだ。
何とか命だけは助かったようだが、その時に負った傷によって自立した生活はできなくなり、今は親にすべての世話をしてもらうような状態だそうだ。
生きているだけで奇跡とも言えるが……。
◆終わり◆




