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婚約破棄され命を絶とうとしたがうっかり蜘蛛の巣に引っかかってしまいまして。

「お前のその短足には耐えられない、よって、婚約は破棄とする」


 頭がつるつるな婚約者ハルゲンはそう言って私を切り捨てた。


 彼のことは嫌いではなかった。だから何とか説得してみようと思っていたのだが、そんな努力は無駄なものでしかなくて。彼はまったくもって聞いてくれず。


 最終的には、彼の家から、ぽいっと放り出されてしまった。


 次現れたら燃やすからな――そこまで言われてしまった。


 私は彼を傷つけるようなことはしてこなかったはずだ。なのに彼は私を傷つける。私を傷つける言葉を敢えて選び、ごみのように扱う。


 それがあまりにも辛く悲しくて。


 私はその日、衝動的に、森の中の崖から飛び降りた。



 ◆



「ん……」


 目覚めると知らない洞窟のようなところにいた。

 周囲は薄暗い。

 地面の材質は石だろうか、少しひんやりする。


「あら、起きたのね」


 声をかけてきたのは、下半身が蜘蛛の腹部に似ている女性だった。


「に、人間……じゃない……?」

「驚かせちゃったかしら、悪いわね。そう、あたしは人間ではないの。蜘蛛の血を引く高貴な種族よ」


 艶のある黒髪が美しい女性は微笑む。


 とても美しい人。

 この世の者とは思えないような空気をまとっている。


「貴女、崖から飛び降りたでしょう」

「あ……は、はい」

「蜘蛛の巣に引っかかっていたわ」


 だから助かったのか。


「それは……その、すみませんでした」

「一応連れて帰ってみたのだけれど、やはり生きていたようね。良かった、安心したわ」


 死ねなかった。

 これは良かったのは悪かったのか。


「助けてくださってありがとうございました」


 その後、何があってそんなことをしたのか聞かれたので、本当のことを話した。


「そう。分かったわ。きっととても辛かったでしょう――望むなら、しばらくここにいなさい」


 考えてしまうことは色々あったけれど、私は、彼女のもとでしばらく生きることにした。


 ここでなら知り合いには会わない。

 憐れに思われることもないだろう。

 さらに親に心配されることからも逃れられる。


 今の私にはもってこいな場所だ。



 ◆



 あれから二年半が経ったが、私は今も、下半身が蜘蛛の腹部になっている女性と共に洞窟内で生活している。


 彼女は昆虫を食べる。

 だが私にも同じことを求めようとはしない。

 なので私は拾ってきた木の実やら何やらを食べて生き延びている。


 そういえば。


 かつて私を傷つけたハルゲンは、女性が送り込んだ刺客――毒蜘蛛たちに噛まれ、その毒素によって亡くなったようだ。


 亡くなるまでずっと、彼は、つるつる頭を皆に馬鹿にされ笑われる悪夢をみて苦しんでいたらしい。



◆終わり◆

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