神をも凌ぐような強大な力を持った聖女は城から追放された直後にお誘いがあり魔王軍に加入することになりました。
私、聖女マタタビーナは、神をも凌ぐと言われるような強大な力を生まれ持っていた。
その力ゆえに国王に「聖女様、我が国のため、我々の味方についてほしい」と言われた私は、年頃になると、それが当たり前であるかのように国王の息子で第一王子のアスクと婚約させられた。
この身に宿る強大な力はいろんな意味で使うべきでないもの。
本能的にそう感じている。
だからこれまで使ったことはほとんどない。
うっかり発動しかけて危うかったことはあるけれど……。
でも、それが悪かったのかもしれない。
「マタタビーナ、君に強大な力があるとか何とかいうのは嘘なのだろう?」
婚約者にして王子のアスクは、その日、一人の女性を連れて城内の私の部屋へ来た。
「え。あの……どういうお話なのでしょうか」
「彼女から聞いたんだ。君の力はまやかしのものでしかない、と」
勝手なことを言って……。
無条件に信じる方も信じる方だが……。
「彼女が言うには、彼女こそが本物の聖女だそうだ。実際、彼女は魔法を使えている」
「そうですか」
「嘘つきだとは思わなかった。呆れた。ということで、君との婚約は破棄とする。……いいな?」
なんということだろう。
まさかこんな形で婚約破棄を告げられてしまうとは。
想定外も想定外だ。
「待ってください、さすがにいきなりすぎ……」
「はぁ?」
彼は女性を大事そうに抱いて睨んでくる。
そんなに私の存在が邪魔なのか。
「王子である僕にそのような口の利き方をするな、馬鹿嘘つき女」
「ほら! さっさと部屋から出ろ!」
私は強制的に廊下へ連れ出される。
「警備兵! この女をさっさと城から出せ!」
「え……。ですが、しかし……そのようなことは認められておらず……」
「うるさい! 王子たる僕の命令だ、聞け!」
「は……はい……」
まるで囚人か何かのようだ。
王子から警備兵へ引き渡される。
そうして私は城から追い出されることとなった。
私の力は使えない。強力過ぎるから、危険だから。なのに私は力を使えない嘘つきと思われている。それがどこまでも悔しくて。嘘つきと名誉を汚されるくらいなら、彼の目の前でこの力を発動してやりたかったくらいだ。でもそんなことができるはずもなく。結局私は黙って去るしかなくて。
虚しい。
そんな思いを抱きながら街中を歩いていると——。
「キミ、噂の聖女さんだよネ?」
一人の不思議な見た目の男性に出会う。
「城から出たなら、ウチへ来ない?」
これもまた一つの運命か——そう思い、私は彼についていくことを選んだ。
不安がないわけではない。
怪しいことも事実だし。
けれど、どうせどこへも行けないなら、私は新たなる道へ行こうと思う。
私が連れていかれたのは魔王軍の中央基地。
そこで私は勧誘を受けた——身分高めの兵として働かないか、と。
意外な展開だ。
でも悪くないかもしれないと思った。
彼らは私が持つ力のことを知っているようだから敢えて隠すこともないだろう。
それに、魔王軍には人でない者たちが多く所属している。
彼らの中でなら、私がこの強大な力を使っても、それほど驚かれはしないかもしれない。
ならばそうして生きるのも一つの道。
私は魔王軍に加わることにした。
◆
あれから数年、私は今も魔王軍の一員として生活している。
だが意外な展開になったことが一つだけある。
それは、私が、魔王軍のリーダーである魔王の妻となったことだ。
彼はとても美しい瞳の持ち主で、そこが好き。
ちなみに、私がかつていたあの国は、『強大な力を持つ聖女』がいなくなったことで隣国から攻め込まれ、あっという間に降伏に至ったそうだ。
王族の多くが処刑されたそうで、そこには、アスク王子とその妻である形だけの聖女も含まれていたそうだ。
もっとも、今の私には関係のないことだけれど。
私は今日も魔王軍の一員として活動する。
生まれ持ったこの力も今では邪魔なものではない——大切な者たちを護るために使えるのだから。
◆終わり◆