婚約破棄でも何でもすればどうですか? 私はそれでも構いませんよ。どうぞご自由に。
婚約者モルクアに呼び出された。
彼の方から私を呼び出すなんて珍しい。
いつ以来だろうか。
そんなことを思いつつ彼の家へ行ってみると。
「話がある」
真剣な面持ちでそんなことを言われた。
厄介なことに発展していかなければいいが……と思いながらも「何でしょうか?」と返す。
すると彼は口を開く。
「君はどこまでも可愛げがない女性だね」
なぜゆえいきなりそのようなことを?
唐突過ぎる。
「美人だから僕の相手にちょうどいいかと思ったけれど、やはり駄目だ。君は僕には相応しくない」
「ならどうしますか?」
「よって、君との婚約は破棄させてもらおうと思う」
やはりそう来たか。
薄々読めていた。
しかし、本人の前で堂々と『僕には相応しくない』などと言えるというのは、どういう神経をしているのか少々不思議に思う部分もある。
普通、そう思っていても、なかなかそれを他者に言うことはできないものだろう。
よほど自分に自信があるのだろうけど。
そう考えたとしても謎だ。
私には理解の及ばない思考回路である。
「ただし、チャンスは与えよう」
「はい?」
「君がここで誠意を見せるならば、婚約破棄をやめるか検討してやってもいい」
なぜいちいち上から目線なのだろう。
「いえ……婚約破棄していただいて大丈夫ですよ」
ただし、契約違反したということで向こうがお金を支払わなくてはならない可能性は高いけれど。
彼は気づいていないのかもしれないが。
婚約時にそういう契約になっていたから。
「やはり可愛くないな」
「何とでも言っていてください」
「では! 本日をもって、婚約は破棄とする!! ……そういうことだ、出ていってくれ」
「はい。それではこれで失礼いたします」
こうして、この日をもって、婚約者モルクアとの関係は終わった。
その後、モルクアには、婚約を勝手な理由で破棄したということで、償いのための支払いが求められた。
彼は最初「正当性がない」だの何だのあれこれいって支払い逃れしようとしていたが、婚約時の書類にその内容が記載されていたこともあり、彼は払わなくてはならないこととなっていった。
で、数週間が経ってから、ようやく渋々支払った。
それで彼との縁は終わった。
◆
以降、モルクアと顔を合わせることはなかったけれど、彼はあの後美女詐欺師に騙され酷い目に遭ったそうだ。
モルクアの前に突如現れた美しい女性。
彼は彼女に惚れ込んで。
自分に相応しい、として、彼女と結婚することを強く希望する。
話は不自然なほどスムーズに進んだ。
しかし、いざ正式に結婚するとなった日の前日に、女性は消えた。
彼女にかけてきた多くのお金は無駄となった。
だが、お金以上に、モルクアの心がダメージを受けた。
彼は毎日を泣いて暮らすようになったそうだ。
自室にこもるようになり。
両親とさえ顔を合わせないようになっていったらしい。
また、自殺未遂のようなことも繰り返しているとか。
ま、もはや私には関係ないのだけれど。
ちなみに私はというと、あの後知人の紹介で知り合った隣国の権力者の息子と結ばれ、今は彼の国にて恵まれた環境で生活している。
綺麗な部屋があり。
美味しいものを食べられる。
この暮らしには満足している。
◆終わり◆




