かなり雑な理由で婚約破棄された私ですが、以前一時期暗殺者をしていた兄が協力してくれたので痛い目に遭わせることができました。
空は青く澄みわたり、穏やかな風が髪を撫でる。頬に触れる空気は暑すぎず寒すぎずのちょうどいい温度で、鳥の軽やかな鳴き声が独特の旋律を奏でる。
そんな、爽やかを絵に描いたような日。
婚約者オーガに呼び出された。
話がある、とのことで。
何かと思っていると。
「実は、君との婚約を破棄することにした」
それが話だった。
「君のことを好きにはなれない。よって婚約は破棄とさせてもらいたい。良いだろうか? ……いや、君の意思など関係ないのだが。とにかく、そういうことだ。君のことを好きにはなれないので、婚約は破棄させてもらう」
こうして私は、いつになく爽やかな日に、おおいなるもやもやを抱えることとなった。
◆
私は取り敢えず実家へ帰った。
するとその日はたまたま兄が実家へ来ていた。
「お! 久しぶり」
兄は今日も凛々しい。
女性にモテそうな容姿はずっと変わらない。
凛々しくかっこいい容姿を持っていながら彼がモテないのは……いつもどことなく殺意のような空気をまとっているからだろうか。
兄は以前一時期暗殺者をしていた。
その時の名残か、彼は、常にどこか緊迫した雰囲気をまとっている。
暗殺者を辞めてもそこはなかなか変わらないのだ。
とはいえ、彼は優しい。
「……え? 婚約破棄された? ……しかもそんな雑な理由で?」
暗殺者というのは彼の顔の一つでしかない。
私の前では彼は良い兄だ。
「ちょっと痛い目に遭わせたい? ……いいよ、協力するよ」
その後、一週間もかからず、兄はオーガを拘束し連れてきてくれた。
「何なのだ! 何のつもりだ! 婚約は破棄と言ったろう!」
「今からこのもやもやを晴らすのです」
地下室に繋がれた意味をオーガは気づいているだろうか。
「今からこのもやもやを晴らさせていただきます」
「なっ……何をする気だ!?」
「雑な理由で婚約破棄された私のこの何とも言えぬ辛さ、あなたにも味わってもらいます」
兄が運んできてくれたのは色々な物騒な道具。
棍棒、ペンチ、釘、小型斧……などなど。
その頃になってオーガはすべてを悟ったようだった。
「や、やめれ! 危険なことをするな!」
「確かに危険ですね。そして私は悪、分かっています」
「悪いことを悪いと分かってするなよ!」
「何を言っても無駄ですよ、手遅れです」
さて、これからどうしようか。
確かにこの復讐は善ではない。
人を傷つけること自体が善いことではないからだ。
でも、たとえ悪になるとしても、私はやりたい。
「ごめんなさいね」
それから私は彼をボロボロにした。
途中から彼は泣いてばかりだった。
でもやめはしない。
やめる気などさらさらなかったから。
彼が衰弱しきった後の処分は兄に頼んだ。
◆
オーガはもうこの世にいない。
表向きは行方不明となっている。
彼がどんな惨めな最期を迎えたか、それを知る者は私たち兄妹以外にはいない。
◆終わり◆




