私を虐めていた婚約者は虐められる側になりました。~少しは私の気持ちが分かったでしょうか?~
私には五つ年上の婚約者がいる。
名はダイソン。
幼い頃に決まった婚約者だ。
だが彼は他人を虐めるのが好きという困った性癖の持ち主であり、私はその標的にされ続けてきた。
大人しかった私は嫌なことをされてもなかなか嫌だとはっきりは言えず。それによって舐められてしまったのだろう、彼はことあるごとに私を虐めるようになりそれは年々酷くなっていった。だが、こちらが何か言えばさらに虐められることとなるため、抵抗するようなことは言えなくて。私には黙って耐えていることしか選べなかった。
だが十八の春。
すべてが変わる。
現国王の息子であるオーパル王子が私を気に入ったのだ。
王子、いや、王族の権限はこの国ではかなり凄まじいもの。
彼らが何か言えば誰も逆らうことはできない。
王子が希望したことで、私は、ついにダイソンのところから離れられることとなった。
「本日をもって婚約は破棄となります。さようなら、ダイソンさん」
「何を勝手に……! お前みたいな出来損ない女が王子の妻となってまともにやっていけるわけないだろう、何とかしてここに残れよ……!」
彼が少しごねたけれど、私はそれを無視した。
誰だって虐めてくるような人とは一緒にはいたくない。
こうして私は王子のもとへ。
ダイソンの虐めから解放された。
辛かった日々とももうお別れだ。
◆
その後オーパル王子の妻となった私は、彼に、かつてダイソンからされていたことを話した。
きっかけは些細なことだったと思うが。
一度口を開くともはや止めることはできず、すべて明かしてしまった。
その話を聞き怒ったオーパル王子は、その件に関する調査を開始。それから数ヵ月で様々な調査が行われ、ダイソンがクロであると掴むと、オーパル王子はダイソンを捕らえるよう指示を出した。
「わたしの妻を傷つけた者を許しはしない」
ダイソンは人権剥奪の刑に処され、以降、西の山小屋に監禁されて壮絶な虐めを受けることとなった。
すべてオーパル王子の指示である。
私はその場へ行くことを拒否したので話を聞くだけだったが、そこではかなり凄まじい虐めが行われていたようだ。ちなみに虐める役は王族に仕える者の中から選ばれた者たちである。彼ら彼女らはよってたかって躊躇することなくダイソンを傷つけたようだ。もちろん、身体も心も、である。
一週間後にはダイソンは死を願うようになり、数週間後にはもう脱け殻のようになってしまって何も言わなくなり、数ヵ月が経った今は二十四時間無言で目も常に半開きの状態だそうだ。
話を聞くにもう何も分からなくなっているのかもしれないけれど……虐められていた私の気持ちを少しは理解してもらえただろうか?
すべて分かれとまでは言わない。
が、あの痛みを少しは分かってもらえていれば、とは思う。
◆終わり◆




