婚約破棄されましたけどのんびり穏やかに暮らしますよ。
穏やかに生きていきたい。
そう思っていたのですけれど。
「貴様との婚約は破棄とする」
婚約者アブソスからそう告げられてしまいました。
彼との関係はそれほど悪くないと思っていて、それだけに、急に婚約破棄を告げられるというのは意外で驚きでした。
こんな展開になるなんて、と叫びたくなるような、そんな気持ちです。
もちろん、実際に叫んだりはしませんが。
「貴様は怠惰だ、俺へまともな奉仕もしない。それに、のんびりし過ぎていて、見ているだけで腹が立つ。だから貴様と生きていくのは無理だと思った。それが婚約破棄の理由だ」
なんだかんだで、言いなりにならないのが気に食わないだけではないのでしょうか?
そんな感じがします。
「そうですか。……確かに、奉仕はできません」
「だろう? だから貴様とはやっていけんと思ったのだ」
彼は立ったまま腕組みをして偉そうな態度をとります。
「……分かりました」
私は引くことにしました。
ここで争っても意味などないと思ったからです。
「それでは、私はこれで去ります。さようなら。……失礼します」
まずは実家へ帰ろうと思います。
◆
時の流れというのは本当に早いもので、気づけばもうあれから数年が経ちました。
ここまで、本当に、あっという間でした。
私はというと、今も実家にいて、家事のお手伝いをしつつ小型魔物の世話をしつつで……忙しくもそこそこ穏やかに生活できています。
一番良いのは他者に対して無駄に気を遣わなくて良いというところ。
二番目に良いのは時間に縛られることがないというところ。
私にとっては大きなことです。
小型魔物は比較的人間に友好的な種族が多いので、攻撃してくるような者はいません。
私としては、これからも、こんな風に世話をしつつ生きていきたいと思っています。それが私にもってこいの人生だと思うから。結婚して家庭を築く人生が悪いとは言わないけれど、私に合うのは忙しさはあれどのんびりできるこの暮らしなのです。
ちなみにアブソスはというと。
あの後、女と酒に溺れるようになり、その果てに犯罪に手を染めてしまって逮捕されることとなってしまったそうです。
◆終わり◆




