婚約破棄されたことですし、これからは好きなように生きていきますね。~もう何にも縛られないわ~
私には婚約者がいる。
彼の名はオーベン・アルフォという。
私は彼と共に生きていくと決まった時から彼のためにあらゆる面で力を尽くしてきた。彼が少しでも快適に過ごせるように、と。私が彼のために動けば彼はいつも笑っていられる、そう信じていた。
だが。
「お前との婚約だが、本日をもって破棄とすることにした」
現実は私が思っているものとは違っていた。
この世というのは時に理不尽なものだ。
懸命に動いた者が恵まれるとは限らない。
むしろ、その逆、という時もある。
「……そんな、どうして」
ぽつりとこぼすと。
「お前には面白みがないんだ。素直過ぎるし、俺にために一生懸命働いてくれ過ぎるし。まぁ何でもしてくれるのは助かるんだが……。それに、お前が真面目に動いていると俺がだらけているように見えるだろう? それも嫌なんだよ。お前のせいで俺まで真面目に動かなくてはならなくなる。迷惑このうえない」
彼は婚約破棄の理由を長文にて説明した。
どうやら、力を尽くしてきたことが足を引っ張ったようだ。
私がこれまで頑張ってきたことはすべて無駄だったのか。
むしろそのせいで捨てられるのか。
そう思うと悲しくて、思わず泣いてしまいそうだった。
でも、ここで泣いては駄目だと強く思い、涙だけはこらえる。
「ま、そういうことだ。じゃあな。今までどうも。永遠にばいばい、だな」
「……はい。さようなら」
こうして、彼との日々は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
オーベンに婚約破棄されたことで、私は、もう何にも縛られたくないと思うようになっていった。
私が頑張っても相手を不快にするなら。もはやあれこれ考えて生きても意味がない。色々考え、気を回しても、結局それが幸せを生まないのなら。私はもう何もしたくない。
何にも縛られず生きよう。
私の心は決まった。
その後、私は、旅に出ることにした。
両親にはたくさん心配させてしまうだろう。ただ、それでも、今はどこかへ行ってしまいたい気分だったのだ。知人が多くいるこの地に縛られていたくない、その思いが大きかった。
◆
一年半後。
私は一人の男性と共に実家がある町へ帰った。
その男性とは、旅先の宿泊施設にて出会った。私が宿泊施設の廊下でハンカチを落とし彼がそれを拾った、そんな始まりで。それから顔を合わせるたびに話をするようになっていって、いつしか親友のようになっていった。で、話の流れで、二人で旅をすることになった。
「男!? ど、ど、どうして!? 何があったというのだ!?」
「まぁ~」
彼を見た両親はかなり驚いていた。
その後、私は、彼と結ばれる気でいることを両親に話した。
「突然になってしまい申し訳ありません。ですが、心は決まっています。どうか、娘さんをわたしにください」
◆
あれから数年。
私は両親がいる町にて旅先で出会った彼と二人暮らしている。
夫となった彼はいつも穏やかな瞳で私を見てくれる、そこが好きだ。
ちなみに、彼と暮らしているこの家は、私の父親が密かに持っていた家である。父親が、持ってはいるものの使わないから、ということで、私たちの住居にすることを許可してくれた。
そういえば、これは、最近母親から聞いたのだけれど……オーベンはあの後貧しくなってしまったそうだ。
彼の父親の事業が失敗したことで急に借金だらけになってしまい、さらに、父親の不倫まで発覚してしまい。
そのことを恥ずかしく思った彼は、一人、どこか遠くへ引っ越していったらしい。
もう彼に会うことはないのだと思うと少しほっとできる。
私はもう何にも縛られない。
自由に幸福を掴む。
◆終わり◆




