婚約破棄、湖の畔にて思うこと。
今日、数時間前、婚約者から婚約の破棄を告げられた。
そして今。
私は家の近くの湖の畔にいる。
昼間は多少人通りがあるが、夜間のここは基本誰も来ないため静かだ。
静寂を絵に描いたような暗い色の水面を見つめながら思う。
どこで間違ったのだろう?
そんなことを。
彼のことを愛していた。大切に思っていた。彼といつまでもいたい、そう思っていた心に嘘偽りはない。これからもずっと二人で、色々なことを乗り越えて、生きていこうと思っていたのだ。その気持ちは確かなものだった、それは神様にだって誓える。
でも、彼と生きることは叶わなかった。
今はこの湖を見つめることさえ悲しく思える。
彼と初めて二人で出掛けたのがここだったからだろうか。
ここには楽しい思い出があった。でもそれは過去のものとなってしまって。あの輝いていた思い出は、過去という沼に深く沈み込んで。もはや私の心を躍らせることはない。それどころか、黒く重くなった過去という名のそれは、私にへばりつくようにしてこの身に黒を塗りたくってゆく。
あぁ、今はもう、黒しか見えない。
彼と一緒にいたかった。
一筋の涙が頬を伝うのを感じた。
◆終わり◆




