婚約破棄を告げられた令嬢は魔物を知って育てたい! ~そして彼女は称賛の的となってゆく~
そこそこ資産のある家に生まれたタランテ・タランカは、家が森の近くだったということもあり、魔物に馴染んで育ってきた。
この国における魔物とは、悪しきものだけではない。
種類にもよるが、人々の生活の質を向上させる働きをするものも少なくはない。
ただ、魔物への印象はいまだにあまり良くない部分もあって。
魔物と仲良くしていたり魔物を飼っていたりするだけで悪く受け取られることというのも、やはり、まったくないわけではない。
そしてタランテも。
魔物への良くない印象によって損をすることとなる。
「お前、魔物を飼っているらしいな。噂によれば卵も持っているとか」
「それがどうかしましたか?」
「悪魔の手先を育てようとは! 悪魔だな!」
「すみません意味が」
タランテは婚約者アーガルにびしっと指をさされてしまう。
「そんな怪しい女を我が家に入れることはできない! よって! 婚約は破棄とするっ!!」
開戦の号令のように勇ましく。
アーガルはタランテとの関係を終わらせることを宣言した。
「ったく、魔物と関わろうなど意味が分からない、どうかしている」
最後。
彼はそう吐き捨てた。
こうしてタランテは婚約をなきものとされてしまった。
だが彼女は悲しみはしなかった。
なぜなら彼女には婚約者以外にも大切なものがあったからだ。
その日、彼女は、魔物のお世話のために生きてゆくと心を決めた。
それまでは「普通の人のように生きた方が良いのかもしれない」と思って頑張っている部分があったのだが、婚約破棄されたことで、もうそうは考えなくなった。
◆
婚約破棄から数カ月。
凶暴な種の魔物の村襲撃があった。
タランテがその魔物の特性を知っていたことで多くの村人は無事逃げられたのだが、彼女の話を信じず勝手な動きをしたアーガルだけは魔物の群れに襲われ亡くなった。
◆
その後、数十年、タランテは魔物のお世話に力を尽くした。
彼女の働きは大きく。
その活躍によって、多数の魔物の詳しい情報を得た人間は、より深く魔物と関わることができるようになっていった。
また、彼女は、人と同じくらいの知能を持つ魔物がいることを発見。
それも世界に大きなうねりを生み出した。
彼女がいたからこそ分かったこと、というものが多く、いつしか彼女は『魔物と人間の架け橋』と呼ばれるようになっていった。
今や誰もがタランテを称賛する。
彼女はもう憐れな令嬢ではない。
◆終わり◆




