君とはもう生きていけない、と、ある日突然告げられました。しかも悪い魔女とかなんとか言われて不快です。が、私は私の道を行きます。
「君とはもう生きていけない」
ある日突然告げられた。
私はそこそこ裕福な家に生まれた。一人娘であったこともあり子どもの頃からいろんな経験をさせてもらって、気づいた時には植物というものを愛しく思うようになっていた。植物は種類がとても多く、まだ見ぬものも多くある。それが楽しくて、植物の観察や世話に熱心に取り組んできた。
しかし年頃になると婚約することを求められ、目の前の彼アドムスと婚約することとなった。
それが数ヵ月前のことである。
なのに彼は心なく言う。
「よって、君との婚約は破棄とする」
何が起きたのかすぐには理解できない。
「なぜですか……? そんな、急に……」
「植物好きの女なんぞ悪の魔女でしかない」
「なっ……。そんなことはありません、悪の魔女だなんて……」
どうして平然とそんなことを言えるの?
私はただの植物好きな女でしかない。それは彼だって知っているはずだ。私は悪の魔女と言われるようなことはしていない、いや、そもそもそんな影響力があるようなことはできないのだ。
「魔女だろう!」
「違います!」
「嘘つけ! 普通の女は植物など愛さないんだ!」
そんなことを言われても……。
でも、そこまで言われてしまっては仕方ない。
「いいからとっとと出ていってくれ」
「……そうですね、はい、分かりました」
私は折れることにした。
彼と生きていくことは諦めたのだ。
でもそれも一つの道なのかもしれない。
私は私がやりたいことをやって生きていけば良い。
目に見えない何者かがそう教えてくれているのかもしれない。
◆
早いもので、あれから九年が経った。
私は数年前から国営の植物園に勤めている。
毎日のように植物に囲まれて暮らせる、それはとても幸福な日々だ。
かつてはそれを理由に婚約破棄されたりと不運の根源のようでもあった植物への愛と知識だが、ここへ来てからはそれらが非常に役に立っている。
今は「あの時にすべてを捨てなくて良かった」と純粋に思える。
こうして私が幸せになれた一方で、アドムスはあれから残念なことになったそうだ。
これは知人を通して知った話なのだが。
アドムスはあれからお菓子作りが趣味の女性と仲良くなり婚約したそうだ。彼はその女性をとてつもなく気に入っていたらしい。彼は周りにもよく「愛くるしい、これでこそ女性だ」と言っていたそうだ。
だが、アドムスがちょっとした気まぐれで他の女と遊んでいるのがバレたことで関係は一変する。
アドムスは婚約破棄された。
しかも多額の慰謝料を取られることとなる。
さらに、これで最後だからと渡されたお別れのお菓子に実は毒が入っていて、せっかくだからとそれを食べてしまった彼は毒を摂取してしまって落命することとなったらしい。
◆終わり◆




