愛する人のためになら何でもした彼女は、いつしか伝説になった。
貴方のためなら悪にでもなれる。
初めて貴方と出会ったその時、私は、生まれて初めて恋に落ちた。
容姿も、笑みも、声も。
すべてが私の好みにぴたりとはまっていたから。
「私、貴方に、生涯忠誠を誓うわ」
「ありがとう。なら僕はそのお礼として……君と婚約する」
それからというもの、私は、常に彼のために動くようになっていった。
でもその努力は実り。
「いいのよ? 無理しなくて」
「いや、そうじゃない」
「え?」
「多分僕は……いつの間にか、君に惚れていたんだ」
望みは叶った。
彼の一番近い人になれた。
訪れる、春。
色鮮やかな世界で、彼と共に、色々なところへ行った。
「僕はこの国を手に入れるよ」
「いい夢ね」
「君はこれからも協力してくれるかい?」
「当然よ」
笑い合った。
幸せだった。
それから私は彼が国を手に入れるために必要なことは何でもした。
何も怖くなかった。
彼のために生きられるのなら。
「今日もありがとうな」
「気にしないで」
どんな辛さも、彼を見れば消える。
「じゃ、また明日も頼むな」
「……ええ、もちろん」
彼の笑みは私のすべての穢れを払ってくれるかのようだ。
◆
でも、その夜、私は見てしまった。
「ねえねえ、こういうの興味ない~?」
「あるよ」
「うふふ~ん、よければ、あたしで試してみな~い?」
彼が知らない女性といちゃついているところを。
「何をしているの?」
私は思わず声をかけてしまった。
最初少し驚いたような顔をした彼だったが、すぐに冷めたような表情になり彼は言う。
「あー見られたか。バレちまったな」
彼は慌てていなかった。
「ま、いい機会だから言っとく。俺、お前と本当に結婚する気はないから。本命はこっちだからさ」
彼の横の女性は「いや~ん照れるぅ~」などと言っている。
「そういうことだから、お前との婚約は破棄な」
言われた瞬間。
身体が無意識に動いた。
隠し持っていた小型の武器で彼の首を横から貫く。
「がっ……」
彼はその場で倒れた。
響く女性の悲鳴。
私は視線を女性に移す。
「や、やめろ……彼女に……手を、出すな……」
「無駄よ」
「どうしてそこまで……」
女性を一撃で仕留め、振り返る。
「私をここまで育てたのは貴方よ」
その日、私はその場から去った。
彼のことを愛していた。でもそれも過去のこと。今はもう彼を愛してはいない。彼とは終わった。
◆
その後、彼女は世界各地で要人の暗殺を繰り返し、皆に恐れられる女性となったのだった。
だが、彼女の詳しいことを知る者はおらず。
彼女が何者か。
彼女が何をどうやっているのか。
それすら明らかにならないまま、彼女は伝説になった。
◆終わり◆




