婚約破棄、時は流れてゆくもの。
「これまでありがとう、婚約は破棄な」
礼を言われ戸惑っていたところ、別れを告げられてしまった。
これが恋人ならまだしも理解できるのだが。
婚約までしておきながら急になかったことにしようという発想は私にはなかった。
だが、私が今さら何を言ったとしても、意味などなくて。一度失われた彼の心を取り戻すのは至難のわざ、いや、不可能に近いと言っても過言ではないだろう。人の心というのはそういうものなのだ、熱しやすいが冷めやすい。時の流れが心の火を弱めてしまうということもあるのだ。
こうして、彼との時間は終わった。
その日は嫌みかと思うほど綺麗な夜空だった。
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悲しみ、苦しみ、それらは生きている限り必ず出会うもの。
しかし永遠のものではない。
時の経過が傷を癒やすこともある。
もちろん永遠に消えない痛みもあるだろうが。
すべての痛み苦しみがそうではない。
◆
婚約破棄されてから五年が過ぎた。
私はパン屋を営む男性と結婚し穏やかに暮らしている。
あの日の驚きや衝撃は今でも覚えているけれど……それでもあの日にとどまっているわけではない。
着実に進んでいる。
◆終わり◆




