俺はお前みたいは外れくじじゃ満足できねえんだよ、とか言われたので、無駄な抵抗はせず彼の前から去ることにしました。
その日は突然やって来た。
「俺はお前みたいは外れくじじゃ満足できねえんだよ」
婚約者オーベンと彼の家でお茶を飲んでいた時だ。
「だから、婚約、破棄な」
彼は急にそのようなことを言い出して。
あまりに唐突だったので一瞬悪魔に憑かれでもしたのかと思ったくらいであった。
でもどうやらそういうわけではないようで。
彼は本心を述べているだけのようだった。
「また唐突ね」
「これまでは我慢してきた」
「いきなり酷いのね」
「酷いも何も、それが現実なんだよ。俺はお前なんかどうでもいいんだ」
彼は平然と人を傷つけるようなことを言う。
「そもそもだな、お前に近づいたのはお前じゃなくお前の姉を嫁に貰うためだったんだ」
意外なところで知らなかったことが明るみに出た。
「なのになんだかんだでお前を押し付けられることになっちまった。がっかりだぜ。ま、あの麗しい女性となら、親戚になれるだけでも良かったんだけどさ。だからこれまではお前で我慢してきた」
酷いなぁ、と、思わざるを得ない。
私がそんなに嫌なら、最初に話が出た時にはっきりと断れば良かったのに。
「でももうさすがにもう我慢できなくなってきちまったんだ」
「確かにあの豪快な近づき方には違和感があったけれど……そういうことだったのね」
「あぁそうだよ、悪いか?」
「ま、悪いでしょうね。というより感じ悪いわ」
本心を話すと。
「そういうとこだよ! 可愛くねぇなぁ」
その後、婚約はさらりと破棄となった。
◆
帰宅した私は実家で暮らしている姉と両親にこのことを話した。
どう言われたかまですべて。
それを聞いて一番怒ったのは、他の誰でもない――姉であった。
姉は昔から私を宝のように扱ってくれる。一般的な姉妹よりは年の差が大きいというのもあるかもしれないけれど、彼女は私に優しい。譲ってくれたり、支えてくれたり、彼女は私をいつも姫のように扱ってくれるのだ。
そんな姉のことだ、私を悪く言われて許すはずもなく。
「許せない。待ってて、その男、言葉でしばいてくるわ」
姉はそう言って家を出ていった。
◆
数日後、オーベンは、自宅の自分の部屋にて亡骸となって発見された。
一時、村は大騒ぎになった。
健康体だったオーベンが急に亡くなったということで。
事件性はなく、自ら命を絶ったと思われる――そういう結果で話はまとまり終わった。
ただ、その後、私は姉から聞いた。
『彼が亡くなったのは多分私が色々言ったからだわ』
彼女はそう言った。
話によれば、姉はあの日、オーベンに会いに行って二人の時間を過ごしたらしい。
もちろん良い時間ではなく、姉による罰の時間だ。
オーベンはずっと憧れていた人から鋭く強く批判され心が折れてしまったようで、その結果、死へと向かっていったのだろう。
ただ、姉は後悔はしていないようだった。
彼に嫌なことを言われた記憶は消えないが。
それでもすべては過ぎたこと。
私は未来への一歩を踏み出さなくてはならない。
オーベンとの記憶はもう過去のものだ。
◆
あれから数年、私は今、一人の男性と共に旅をしている。
婚約破棄された数か月後、私は一人の旅人と出会った。彼は一時的にこの村に宿泊していたのだ。ちょっとしたことで知り合いになった私と彼、あっという間に仲良くなって。お互い、共に旅することを選んだ。
姉は私が村を出ていくことを残念がっていたけれど、最後は温かく見送ってくれた。
私は今も彼と幸せに暮らすことができている。
新しい世界と刺激。
毎日が最高の日だ。
◆終わり◆