表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/1194

魔法でお茶を淹れるのが大好きな令嬢は、傷だらけの少年を拾う。~さぁ、癒しのティータイムを始めましょう~

 ルリー・エットリーフ、オリーブ色の長い髪を持つ彼女は、魔法でお茶を淹れるのが大好き。


 そこそこ裕福な家に生まれた彼女は温かい両親のもとで穏やかに育った。


 趣味は昔からずっとティータイム。

 それは変わらない。


 だが、悩みがあまりなかった彼女にも、今はちょっとした悩みがあった。


 ――そう、最近、婚約者から婚約破棄を言い渡されたのだ。


 彼女は婚約者から誤解されていた。


 婚約者ブルーは魔法を使える者全員が怪しい悪の者と思い込んでいる。で、ルリーが魔法を使えると知った途端に、彼は彼女を敵視し始めた。さらに、きちんとした契約である婚約も破棄しようと言い出したのだ。当然彼女側は抗議したが彼と彼の親には聞き入れてもらえず。結局、ルリーとブルーの婚約は消えることとなってしまった。


 そんなこともあって、最近のルリーはあまり爽やかな気分ではいられない。


 大好きなお茶を飲んでいる時でさえ、心には厚い雲がある。



 ◆



 ある日のこと、ルリーが自宅の庭にて一人いつものようにティータイムを楽しんでいると、一人の少年がふらふらと入ってきた。


 最初は不審者かとも思ったルリーだったが。

 すぐにそうではないと気づく。


「貴方怪我してるわ! 大丈夫!?」


 少年が正体不明であることに変わりはないものの、傷だらけの彼を放ってはおけず、ルリーは彼を自宅へ連れていくことにした。



 ◆



「う……」

「良かった、気がついたのね」


 少年の瞳は翡翠のような色をしていた。


「あ……ここ、は……?」

「私の家よ」

「あな、た、は……女神、さま……? ぼく、死ん、で……?」

「しっかり。違うわ、貴方は生きているのよ」


 少年の身体の傷はルリーが手当てした。

 傷の状態は安定している。


「何があったか知らないけれど、うちの庭に入ってきていたのよ。だから手当てしたの」

「お姉さん……ありがとう……」

「いいのよ。あ、そうだ。落ち着いたらおすすめのお茶があるから、ぜひ飲んでね。いつでも淹れるから」


 それがルリーと少年クルフの始まりだった。


 ちなみに、クルフは、ちょっとした事情からとある組織に命を狙われているらしい。



 ◆


 それから数カ月。

 クルフはある日突然「ちょっと出掛けてくる」と言い出した。


「待って、一人で大丈夫なの?」


 ルリーが問うと、クルフは笑う。


「大丈夫だよ! じゃあね!」


 そう言って彼は出ていった。


 ルリーは不安を抱く。

 一人で行かせて大丈夫なのだろうかと。


 だが気にしないことにした。


 気にしてばかりでは良いものは何も生まれないと知っていたから。



 ◆



「ただいま!」


 数日後。

 クルフは無事帰ってきた。


 いや、無事、ではない。


 彼はまた身体にいくつもの傷を負っていた。服は破れ、肌は傷だらけ、ところどころには赤いしみができていた。


「また怪我したの!?」

「あぁうん……ごめん」

「駄目じゃない!」

「でも、あの組織を潰せたよ」


 きょとんとするルリー。


「あ、そうだ。いい情報があったんだ」

「何?」

「その組織の副代表、ルリーの元婚約者だったみたいだよ」

「え」

「いたんだよね? 婚約を破棄してきた男が」


 ルリーは戸惑いつつも頷いた。


 クルフの話によれば、彼を追っていた組織の副代表の男がルリーの元婚約者の男と同一人物だった。


 で、彼がどうなったかというと、魔物の巣に半裸で落とされたそうだ。


 魔物に食われて死ぬか。

 食料がなく飢えて死ぬか。


 彼の運命は二つに一つ。



 ◆



 六年後。

 ルリーはクルフを夫とし、自然の多い地域にて、穏やかに暮らしていた。


「今日はカモミールにしてみたわ、珍しいでしょう」

「あああれ! 好きだよ!」


 毎日がティータイム。


 二人は幸福。



◆終わり◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ