婚約破棄するのはいいけれど、何も知らないくせに魔女とか言うのはやめてください。私はそんな存在ではありません。
「お前、魔女なんだろ」
生まれつき魔力を持っていた私は昔からよくそんなことを言われた。
言っている者は冗談半分だったのかもしれない。
けれどもそう言われ虐められているこちらからすれば冗談だなぁで済ませられるわけもなかった。
魔力を持っている者、と、魔女、は、そもそもまったくもって異なる存在。
多くの人がそこを理解していない。
何も知らないからそんなことが言えるのだ。
無知とは恐ろしい。
◆
今年二十歳になるのだが。
「お前、魔女なのだろう」
今日。
婚約者フルーフルから聞きなれた言葉をかけられてしまった。
またそれか、という感じだ。
その言葉は聞き飽きた。
「違います。魔女ではありません。そもそも、魔力を持っているというのと魔女というのは同じ意味ではなくて……」
「同じようなものだろうが」
「違います! 魔力を持っているだけの私のような者は人を傷つける術は使いません!」
説明しようとするがフルーフルは聞いてくれない。
「まぁいい。そういうことだから……婚約は破棄とさせてもらう!」
あぁ、まただ。
また、魔力を持っていて損をした。
でももう心は揺れない。
魔力を持って生まれ損をする痛みには慣れているから。
どうして普通に生きられないのだろう。
そういう悔しさはあるけれど。
でもだからといって号泣したりすることはない。
「二度と我が家に顔を出すな、と母が言っていた。そういうことだから。じゃ、な」
◆
フルーフルに婚約破棄された日から数週間が過ぎたある日のこと。
隣街へ買い物に行くため山道を歩いていると男の太い悲鳴が急に飛んできた。
何事かと思って駆けつけると、従者のような者を連れた一人の男性が狼に似た魔物複数に襲撃されていた。
「伏せて!!」
意識するより先に身体が動く。
指先から放つ火炎の魔法。
魔物に向かって紅の華が飛び咲く。
魔法を使ったことで、狼に似た魔物の群れを追い払うことができた。
「助けてくれてありがとう」
「いえ。無事ですか?」
「ああ大丈夫。それより、君、素晴らしい魔法使いだね」
彼は私を魔女とは呼ばなかった。
「よければ礼がしたい。後日改めて、僕のところへ来てくれないかい」
「え」
「ああそうだ、君の住所を教えてほしいな。そのくらいならいいかな? 後日また遣いを送るよ」
それが王子フィリュッペとの出会いだった。
◆
少し前まではこんなことになるとは思っていなかったが、私は、王子フィリュッペと結婚した。
城なんて遠いところだと思っていた。
でも私は今そこに住んでいる。
運命とは、人生とは、不思議なものだ。
でもこの人生を悔いてはいない。
むしろ彼と出会えて良かったと思っている。
だって彼は私を魔女とは呼ばない。
彼はその辺りをよく分かっている。
ちなみにフルーフルはというと、フィリュッペとの婚約が発表された翌日に首都の中央公園にて私を侮辱する行為を数時間にわたって続けたことで身柄を拘束され、処刑となった。
◆終わり◆