スキもキライもどうでもいいよ! ~婚約破棄なんかに動じている暇はありません~
あたしリリーは領地持ちの家の息子ルットと婚約しているの。
出会ってすぐの頃、彼はいつもあたしのことを褒めてくれた。
だから彼のことは好きだったんだけど。
いつからか彼はあたしでない女の人に目を向けるようになっていっちゃったんだよね。
で、今朝。
「リリー、俺、これからは本心に素直になって生きるわ」
「どうしたの? 急に」
「あーもう言わなくても分かってくれよ!」
分かるわけがなかった。
あまりにも突然過ぎて。
「婚約を破棄する、って言ってんだよ!」
思わず「え」と一音だけをこぼしてしまう。
察してくれ、みたいなことを言われても無理だよ。だっていきなり過ぎるんだもん。もうちょっと察せそうな内容なら話は別だけれど。
「婚約破棄……するの? 本気なの?」
「あぁ」
「あたしはもう嫌になった?」
「ま、そんな感じだな」
少し考えて。
「そっか。分かった。じゃ、そうしよう」
短めに返した。
でも残念だな。
前は好きって言ってくれたのに。
でも心が変わったなら仕方ないよね。
他人の心なんて動かせるものじゃないし。
だったらさっさと離れた方が良い気がするよ。
「いいのか?」
「うん! そうしよ」
「そ……そうか、そうだな、分かった」
彼は少しだけ戸惑っている様子だった。
「ま、俺も嫌いになったし。じゃ、ばいばい、な」
好きとか嫌いとか、正直今はどうでもいいよ。
とにかく次!
こんなところで立ち止まっている暇なんてない!
前へ進むよ。
◆
それから数年、あたしは、歴史ある王家にもパイプを持つような家の息子である男の人と結婚したよ。
彼はあたしより八つも年上。
少しばかり年が離れているんだ。
でもとっても優しいしいつも気を遣ってくれるの。
それに威張りもしない。
まさに理想の人! って感じかな。
彼との毎日はとっても楽しくて、今はここに嫁に来て良かったって心の底から思えているの。
ちなみにルットはというと、あたしとの婚約期間中にこっそり付き合っていた女性と結婚したみたい。
色々あって女の人の親との同居って形になったんだって。
珍しいよね。
まぁそれはいいんだけど。
でもルットは大酒呑み義父から暴力をふるわれるようになってしまったんだって。
そんなある日、ルットは些細なことから酔い気味の義父と口論になってしまって、途中で包丁で刺されてしまったんだって。
結局ルットはその時の傷によって亡くなったとか。
お酒って怖いなぁ。
ま、もうあたしには関係ないんだけどね。
◆終わり◆