君は要らないと告げられ自ら命を絶った令嬢は、死後の世界で幸せに暮らす。(後編)
オッスは一本の枝のような杖を取り出すと魔法を発動。
すると宙に画面が出現する。
そこには、鎖で拘束されボロボロになったアボドが映されていた。
服を着ていない。
『もう……もう……死な、せ、て……くれ……』
アボドは涙やら血やら何やらを大量に垂らしながらそのような弱気な言葉をうわ言のように繰り返している。目は半分も開いておらず、鼻水が胸のあたりまで垂れて上半身がべたべたになっている。
『駄目だ! 死なせるものか!』
続けて響くのはルリルカの父親の声。
『我が娘はお前に心を傷つけられ死を選んだ! だからお前には死以上の苦痛を与えてやる! 私が死ぬまで、ずっとな!』
ルリルカは父親がアボドを叩きのめしているところを驚いて見つめた。
「こんなことになっているなんて……」
「ま、仕方ないっすね」
オッスは場面を切り替える。
今度はあのアボドと仲良くしていた女性が映し出された。
彼女は地下牢のようなところに繋がれており、ある程度可愛かったはずの顔面はぼこぼこにされていた。
ほどよく整った目鼻立ちはもうどこにもない。
『貴女は私の可愛い娘を自殺にまで追い込んだのよ、許されないわ』
響くのはルリルカの母親の声。
その声の雰囲気は冷ややかで、ルリルカ自身驚いた。
こんな面があったのか、と。
ルリルカが知っている母親はもっと優しい人だった。
『あ……あたし……男に、騙されて……いた、だけで……』
女性が嘘をつくと。
ルリルカの母親は彼女の頬を強く張った。
『嘘を言うんじゃないわよ!!』
ルリルカの母親は調子を強める。
『貴女、これまでも婚約者がいる男に色仕掛けをしたことがあるそうね! ルリルカの件が初めてではないのでしょう。調査してもう分かっているのよ! これまでずっとそんなことを繰り返してきたのね……痛い目に遭わなくちゃ分からないなら、そうやって分からせるまでよ!』
女性は号泣していた。
「ま、そーいうことっす」
「あんなことになっているなんて……父さん母さん、ごめん……」
「じゃ、そろそろ行くっすか?」
「死者の……」
「そうそう! 死者のための楽園!」
小さく頷くルリルカ。
その瞳には光が宿っていた。
「しゅっぱぁーっつ!」
オッスとルリルカは死者のための楽園へと向かった。
そこは花咲く美しい場所。
楽園という言葉が何よりも似合うようなところだった。
「ここでは何でも手に入るっすよ! 欲しいものは望むだけ! っす!」
「そうなんですね」
ルリルカは美しい空を見上げ微笑む。
「でも、欲しいものなんてないです」
きょとんとするオッス。
「私はこの美しい風景だけで生きていけます」
「……なんというか、ポエマーっすね」
「そうでしょうか」
「あ、いや! 変な意味じゃないんすよ!?」
慌てるオッスを見て、ルリルカは笑みをこぼす。
「お気遣いありがとうございます」
◆
それからルリルカは定期的にオッスを呼ぶようになった。
オッスは仕事の合間にいつも駆けつけた。
二人はいつも笑い合っていて、楽園でもその話は有名だった。
ルリルカも、オッスも、幸せだった。
◆終わり◆