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君は要らないと告げられ自ら命を絶った令嬢は、死後の世界で幸せに暮らす。(前編)

「君はもう要らない」


 二十歳の女性ルリルカは、呼び出された公園にて、婚約者の男性アボドから心ない言葉をかけられる。


 しかもアボドの横にはルリルカが知らない女性がいた。

 彼女はにやにや笑いながら反応を楽しんでいるかのよう。


「え……どういう、意味で……」

「ああもう! 鬱陶しいな! だ! か! ら! 君との婚約はなかったことにするってことだよ! ……そのくらい分かれよ馬鹿女」


 苛立ち声を荒くするアボドの横にいる栗色の髪の女性は、ふふっと小声を漏らしてから、隣のアボドに「とーっても天然な婚約者さんなんですね」と言った。愉快そうに口角を持ち上げながら。


 それに対してアボドは呆れたような顔をしながら「あぁ、こいついつもこんな感じなんだよ」と返す。


 女性は「ここまで天然だときっと楽しめないでしょうねぇー」などと意味深なことを言ってから、意味もなく「ふんふんふ~ん」と鼻唄をうたう。


「そういうことだから、ルリルカ、君とはもう他人になる」


 アボドは隣の女性を大事そうに腕で包み込み歩き出す。


「それじゃあ失礼しますぅー。さようならぁー、不要さんっ」


 女性は去り際さりげなく振り向いて毒を吐き置いていった。


 誰もいなくなった公園で、ルリルカは座り込んでしまう。彼女は泣いていた。顔を両手で押さえ、ひきつるような声をこぼしながら、ただひたすら涙を流していた。


 だが数分して立ち上がる。


 その瞳は暗い。

 無を映し出す鏡のような目をしている。


 彼女はそのまま公園の近くにある大きく深い池へ向かう。


 池と言ってもそこらにあるようなこじんまりとしたものではない。何も知らない者が見れば海と勘違いしてもおかしくないような規模の池。池と呼ばれているのがおかしいくらいの池である。


 もう終わりにしましょう。


 彼女は声なく呟き、池に飛び込んだ。


 通行人が少ない時間帯だったこともあって、池に飛び込んだルリルカはすぐには発見されなかった。

 誰にも知られず冷たい水の中で彼女は最期を迎えたのだ。


 ルリルカが発見されたのは、亡骸になってからであった。


 彼女の帰りが遅いことを心配した親が地域の警備隊に捜索願いを出して、それから捜索が開始され、数日後に池で亡骸が発見されたのだった。



 ◆



「私は……あれ、死んだはず、なのに……」


 ルリルカは死んだ。

 しかし気がついた時には綺麗な肉体を持っていた。


「おっす! 起きたんすね!」


 現れたのは一人の少年のような容姿の人物。


 いや、人ではない。


 彼は死者を死者のための楽園に送る存在だ。


「おれはオッス! よろしくっす」

「オッスさんですね……あの、私、どうして? 死んだはずなのに」

「死んだっす!」

「あ。やはりそうですか。では……ここは……」

「死後の世界っすよ!」


 本当に死ねたのだ、と安堵するルリルカ。


「死後の世界なんていうものがあるんですね……」


 不思議な話だが、その時のルリルカには何となく理解できた。


「もちろんっす!」

「オッスさん、私はこれからどうすれば」

「死者の楽園へ送るっすよ」

「そこへ行くんですか?」

「おっす!」

「……嫌です。私、もう……消えてしまいたいんです」


 暗い表情になるルリルカに、オッスは告げる。


「だいじょーぶ! あなたとの婚約を破棄したあの男、痛い目に遭ってるっすよ!」

「……女性は?」

「女性ももちろん! 痛い目に遭ってるーっす!」

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