婚約破棄された令嬢はもう誰も信じないことにした。
私、信じていたの。
貴方のこと、心から。
でも。
「君とはやめる」
その言葉がすべてを壊してしまったわ。
貴方と生きていこうと思っていた。それが当たり前だと思っていたし、それで良いのだとも思っていた。貴方となら幸せになれる気がした。
でもそれはすべてまやかし。
私の勝手な妄想でしかなかったのだと、その時になって気づいたわ。
「君みたいな顔しか取り柄のない女とはやっていけないよ、性格も地味だし」
「……でも、愛していると、そう言ってくれていたではないですか」
「ああ、あれ? 嘘に決まってるじゃないか。本気で言っていると思っていたのかい? ははは、馬鹿だね」
彼は笑って私の心を踏みにじった。
許せない。
許せるわけがない。
子どもではないのだから言ったことにくらいは責任を持ってもらわなくては。
その日は黙って彼の前から去った。
けれども。
嘘をついて傷つけた彼の罪は消えない。
私はもう誰も信じない。
けれど、彼への復讐だけは、必ず成し遂げてみせるわ。
◆
新月の夜。
この暗闇で、私の復讐は終わった。
私は我が家に代々伝わる秘密の魔術書に書かれている一つの術を使って、恋人と愛し合っていた彼を殺めたわ。
彼の最期は呆気なかった。
笑えてしまうほどにね。
そして、少し申し訳ないけれど、恋人にも逝ってもらったわ。
これで私と彼の縁は終わりよ。いえ、彼はこの世に生きるすべての人との縁を失った。縁なんて生きていてこそ、だもの。死んでしまえば何もかもなかったことよ。
さて、これからどうしようかしら。
私は既に手を血に染めた。
実際に赤く濡れてはいないけれど。
ただこの両手は血に濡れたも同然だわ。
私はもう善には戻れない。
それでも……選択を後悔はしていないわ。
どのみち一度は穢れた身、そういう仕事を始めるというのも悪くはなさそうね。
もっとも、適正があるかは知らないのだけれど。
いずれにせよ、私は、これまでと同じような純粋な人間ではいられない。
それだけは確かなことよ。
でもいいの。
それでも果たしたい復讐だったの。
◆終わり◆