偽りの罪を押し付けられ婚約破棄され牢に入れられた令嬢は、いつしか『牢の女神』と呼ばれるようになる。
私は今、牢にいる。
私が何をしたというの?
私が罪を犯したと、本当に思っているの?
そう、私は、婚約者の王子から婚約破棄を告げられた。
しかも偽りの罪を押し付けられる形で。
今はもう人権など一切ない。
私はただの犯罪者。
悪しき女として牢に繋がれるだけの存在。
ついこの前までは華やかな世界にいた。
なのに今はこんな状態。
私はもう人ではない。
罪人という名の別の生き物のように扱われている。
どこまでも惨め。
こんなでは言いたい言葉さえ見つけられない。
婚約破棄したいのなら真っ直ぐにそれだけ言ってくれれば良かったのに。個人的には強くそう思うのだけど。ただ、王子という地位もあり、そういうわけにはいかないようで。だから、何かの理由をでっちあげるしかなかったのだろう。
だからってどうして……。
その年の冬、私は、牢の中で死んだわ。
◆
私は牢で死んだはずだった。
けれどもどういうわけか今もここにいる。
いや、身体は消滅した、つまり本当の亡くなったのだけれど。ただ、心だけはここに残ってしまったみたいで。今は一日中この牢にいるしかない。
でも、ここにいることにはもう慣れた。
この薄暗い空間も、段々好きになってきたくらい。
たまに罪人と話す時、私は細やかな幸せを感じる。
罪人の中には私と同じようにでっちあげに巻き込まれたという人もいるの。そういう人とは話が合う。共感し合うことができるから。
そういう事情で仲良くなった人が亡くなってしまった時はとても悲しいけれどね。
そんな今の私を、人々はこう呼ぶ。
『牢の女神』
◆終わり◆