美人なところしか取り柄がないと言われ婚約破棄されてしまいましたが、婚約希望者は多く大人気です。
「君は美人なところしか取り柄がない。もっと麗しくお淑やかな女性と思っていたのに、残念だ。よって、婚約は破棄とする」
婚約者オープーからそう告げられたのは、ある晴れた日の夕暮れ時だった。
「そんな。急過ぎませんか」
「は? そういうところだ、可愛くないな。女は黙って男に従ってりゃいいんだよ」
「しかし……」
「うるさい!!」
突如大声を出され、正直、引いてしまった。
少し言い返されたからといって大声を出して我を通そうとするなど、お菓子が欲しくてごねている子どもと大差ないではないか。
いや、それ以上に悪質か。
他者を威圧で言いなりにしようなんて、野蛮としか言い様がない。
「そんな様子では誰からも相手されないだろうな。泣いて謝るか? 顔だけは良いから、もし泣いて謝るなら、今ならまだ許してやらないことも……」
オープーはそんなことを言い出すが。
「いえ、結構です」
微笑んで返す。
だってそうだろう?
なぜ泣いて謝らなくてはならないのか。
泣いて謝りたい状況ならそうするだろうが、向こうからそれを求めてくるというのは違うと思う。
「では私はこれにて。失礼しますね」
彼が終わらせたのだ。
私はそれに従おう。
そんなことで婚約を破棄された私だが、婚約希望者がいないわけではなかった。
いや、むしろ、多かった。
ひとりぼっちで寂しくなるどころか。
やたらと人が訪問してくるようになった。
◆
「よければ一緒に遊びまへん? プレゼントに釣具持ってきましてん! で、ゆくゆくは結婚まで……あかんやろか?」
最初に訪問してきたのは国の西部の領主の息子である青年。
方言まじりな喋り方をする。
赤茶の髪が個性的で、声は常に大きい。
「一緒に釣りしたいねん。あかんやろか? 取り敢えず考えてくれまへんか?」
小魚の妙にリアルな絵が描かれた服を着ている。
どことなく賑やかな彼の次にやって来たのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男性。
彼は東国から来た移民の末裔だそうだ。
代々商人しているらしく、莫大な富を築いているとの話がある。
「貴女を妻にしたいです」
彼は真剣な面持ちでそんなことを言った。
「貴女と生涯を共にしたいです」
若干重い気もするが、真剣な心は伝わってくる。
三人目に現れたのは有力貴族の次男。
四十代くらいだろうか。
さすがに良質そうな服をまとっている。
「君が僕の初恋の人なんだ。恥ずかしいけど……ずっと好きだったんだ。だから結婚相手は君しか考えられなくていまだに独身なんだよ」
結婚相手は君しか考えられなくていまだに独身、には、少々驚いたけれど。
「よければ共に生きてください」
彼は笑顔が素敵な人だった。
それからも多くの男性がやって来て、生涯を共にしたいとか一緒に暮らしたいとか言ってきた。
こんな女でも案外人気である。
ここまで多くの結婚希望者がいるとは思わなかったので驚いた。
なんせ数日で数十人である。
その期間はとても忙しく、常に人に会っているような気がするくらいであった。
◆
十年後。
私は逆ハーレムの中心にいる人間となった。
今は二十人の夫がいる。
夫と言っても皆が同じ扱いというわけではなくて、実際には関係性は色々なのだが。
ただ、皆、私の夫であることは事実なのである。
こうなった理由というのは、私をめぐって紛争が起き出したからだ。
争いが発生し国が荒れることを恐れた当時の国王は、私を呼び出し住居を与え、私を欲する者たちを一ヵ所に集めた。
そうしてこの逆ハーレムが誕生したのだ。
これはこの国の歴史において初めてのことであった。
ちなみにオープーはというと、逆ハーレムを築いたことを知るや否や私の悪口を言い広める活動を始めた。私がこの場所にいることが気に食わなかったのだろう。だが、その行動が、彼を破滅へ追いやることとなる。というのも、ある日の晩中央公園にて悪口を言い広める活動をしていたところ、夫の一人が送り込んだ刺客に襲われたのだ。彼はその場で亡くなったそうだ。
◆終わり◆