婚約破棄? どうぞどうぞ。それでは私は自由に暮らしますね。……と思っていたら意外な展開に!?
「来たか」
その日、婚約者ルイージンに呼び出された私は、彼の家の広間にて迎えられた。
ルイージンの隣には一人の女性。
小動物のような雰囲気のある人だが、さりげなくこちらへ向けてきている表情にはさりげない黒さが含まれている。
「悪いが、婚約破棄させてもらうことにした」
「婚約破棄?」
「あぁそうだ。俺はお前を選ばないことにした」
「これまた急ですね」
「いいだろう? 生涯愛されず生きるくらいなら、ここで終わらせる方がお前のためだろう?」
彼は隣にいる女性を片腕で引き寄せる。
「俺は彼女を誰より愛しているんだ」
「そちらの女性に乗り換える、ということですね」
「おい! 言い方! ……乗り換えるなどではない。俺は彼女だけを生涯愛するつもりだ」
彼が熱い言葉を吐くと。
女性は彼に身をすり寄せて「あぁ~ん好きぃ~」などとほざいていた。
「そういうことだから、関係は今日で終わりだ」
ルイージンはぐいぐいくる。
婚約者同士という関係を何としても解消したいようだ。
でも、それでも構わない。
こちらとて、彼を愛していたわけではない。
ならばそれもありだろう。
ルイージンには可愛らしく振る舞いつつこちらを見てくすっと笑ってくる女性は若干嫌な感じだが……。
「分かりました、ではそういうことで」
私はそれを受け入れることにした。
だって、彼と離れた方が自由を得られるのだ。それは決して変わらない事実。彼のもとにいる間は色々制限されるし彼の言うことに従わなくてはならないけれど、離れてしまえばそのようなことはなくなる。
「では、失礼しますね」
その後、ルイージンとの婚約は正式に破棄となった。
一応少しだけの慰謝料は貰うことができて。
ある意味幸運だったのかもしれない。
それから私は昔からの趣味だった乗馬に没頭するようになっていった。
◆
自分で言うのも変かもしれないが……私は乗馬の技術で天下を取った。
いくつものコンテストで賞を取り、みるみるうちに有名になってゆき、取材されることも増えて。広告に出演することも増え、あっという間に資産を築くことができた。
「貴女がこんなに有名になるなんて……今も嘘みたいよ……」
「おら感動しておるよ」
国王からの表彰を受けることになった日、両親は泣いて喜んでくれた。
◆
私は国王から『乗馬文化の人気を高め発展させた』ということで表彰された。
表彰式には、両親はもちろん、親戚の一部も参加。
行事は、城にて、盛大に行われた。
その後に開催された晩餐会にて、私は国王の息子で長男であるグオリと知り合う。
「一度あなたと話がしてみたかったのです」
初対面にもかかわらず彼は好意的で。
自然と話すことができた。
身分は同じではないものの心の壁はなかった。
その一ヶ月後、結婚を視野に入れて恋人になりたいと言われた。
自由に暮らしたい私は迷った。しかし彼はできる限り自由は保証すると言ってくれて。迷いに迷ったが、彼との道を選択することにした。
◆
あれから数年が経ち、私は今、王子の妻として生きている。
彼は本当に私の自由を守ってくれた。
おかげで、王子の妻ながら、ある程度自由に生活できている。
彼には感謝しかない。
ちなみに、ルイージンはというと、あの後妻と共に『王政を廃止する会』という過激な思想の組織に加入して活動していたそうで。
その活動中、火薬庫が爆発する事故に巻き込まれてしまって、夫婦で亡くなってしまったらしい。
◆終わり◆