告げられた婚約破棄。~尽くしてきたのよ、貴方の望みのために~
これまで尽くしてきたのよ。
貴方の力になるため、悪いことにだって手を伸ばして。
何だってしたわ。
――貴方の望みである『王になりたい』を叶えるためになら。
でも、王になった途端、貴方は私を捨てたわ。
「君はもういいよ。これまで色々ありがとうね、じゃ」
私たちは婚約していたというのに、彼はそれを何の躊躇いもなく投げ捨てて、今はもうこちらを少しも見ない。
それどことか何人もの女性を自分の周りに連れてきて、彼女たちを私より近くに置いている。
せめてその中に入れてほしかった。
でも私はそこへは行けない。
ただただ虚しさが募ってゆく。
そして――ある日、私は、ついに理性を失った。
私はもう彼が他の女性と楽しんでいるところを眺めていることはできない。彼が奪われていく、そんなのは耐えられない。私は誰より彼のために生き戦ってきた、なのにその私が彼の横にいられないなんて。
なら、こんな世界、必要ないわ。
ある夜、お楽しみ中の彼の部屋へ忍び込み、私は彼を殺めた。
彼を囲んでいた女たちは怯えて出ていったわ。
悪魔を見るような目をしていた。
……無理もない、か。
そうして私は旅立つの。
まだ見ぬ世界へと。
私はとうに悪に染まりきった。
もはや何も恐ろしくはないわ。
さようなら、生まれ育った国。
さようなら――悪女がただ一人愛した貴方。
◆終わり◆