殺処分とか何とか過激なことを言われたうえ婚約を破棄されました。が、ある意味殺処分となったのは彼でした。
一時間ほど前まで雨が降っていた。
しかし今は既にやんで。
青く澄んだ空が静かに地上を見下ろしている。
「なぁ、フレーラ」
声をかけてきた茶髪の男性は私の婚約者。
名はボボウ。
彼は無職で一日のほとんどを寝て過ごしているような人だ。
「何?」
彼から声をかけてくるのは珍しい。
「おまえ殺処分な」
「はい?」
いきなり飛んできた殺伐とした雰囲気の言葉。
すぐには理解できない。
それは本来人間にかけるような言葉ではないと思うのだが。
ただ、彼としては、そこまで深く考えず言っただけなのかもしれない。
「どういうこと?」
「おまえみたいなクズとは他人になる」
いきなり『クズ』はないだろう、失礼にもほどがある。
「婚約をやめる?」
「あぁ」
「またいきなりね」
「それが嫌なら泣いて謝れ。で、服を脱いで土下座しろ」
私は溜め息しかつけなかった。
もっとも、口から出してはおらず、心の中でつく溜め息なのだけれど。
「嫌よ、服を脱ぐのは」
「なら殺処分な」
「婚約破棄したい、用はそれだけ?」
「そういうこと」
「分かったわ。それでいいわよ。じゃあそうしましょう」
いきなり物騒なことを言ってくるような人とは……もう付き合ってはいけない。
「じゃあね、さようなら」
「消えろし」
私は彼の前から去る。
こうして私と彼の関係は終わった。
ボボウは前から時折不思議な行動をする人だった。
なぜか自室で枕をばんばん叩いて「キエーッ」とか叫んでいたり、近所の図書館で女児が読むような絵本を五十冊ほど借りてきてベッドに積み上げたり、公園を散歩している最中に急に走り出して噴水に入ってそこの水で足の垢を流したり。
だから、正直、彼に終わらせられたことへの悲しさはない。
むしろ上手く離れられて良かった。
◆
月日は流れ、婚約破棄から十六年。
「水筒持ったの!? ハンカチは!?」
「ある~」
「ねーちゃんがぼくのとった!」
「はぁ~!? 嘘つくなや、あんた持っとるやん!」
「喧嘩しないで行きなさい」
今は二児の母となっている。
朝から家は大騒ぎ、もはや日課だ。
夫はこの国の富豪ベストテンにランクインしている男性で、主にガスや燃料を扱う会社を持っている。
そのため家にいない時間も多い。
だから私は自力で子どもたちの世話をしている。
ただ、彼の両親がとても良い人で。
同居しているのだが、二人は、いつも私のやるべきことを手伝ってくれる。
本当に恵まれていると思う。
そんなある日、私は、地域新聞にてボボウについて知った。
彼は先週、とある学校に刃物二本を持って押し入り、暴れたそうだ。教師の中に元兵士が多かったために彼は早くに取り押さえられ、死者は出ずに済んだようだ。教師一人が軽い怪我をした程度で済んだらしい。子どもには負傷者はいなかった。で、ボボウは治安維持組織に突き出される。まずは全裸晒しの刑となり、その後、反省の様子が見られなかったために、処刑されたそうだ。
この国では子どもを巻き込んだ事件に対する刑が重くなる傾向がある。
それは昔からだ。
今回もそのこともあって死刑となったのだろう。
◆終わり◆