婚約破棄? え、私、貴方と婚約なんてしていませんけど。あ、もしかして、双子の姉と間違いました? 婚約者を見分けることさえできないのですか?
その日、私は、一人で茶会に参加していた。
いつもは双子で参加しているのだが、今日は彼女が用事があったので、私一人での参加となった。
一人でこういうところに出るというのは少々慣れないが、そうなったものは仕方ないので頑張ろうと思っていたところ。
「お前! 今日は用がある!」
双子の姉であるリリカの婚約者であるオープルがやって来た。
なぜ私に用が?
リリカへの用事ではないのか?
「お前との婚約、破棄することにした!!」
腕組みをし胸を張り、威張っているような格好をして、鼻息を荒くしながら述べるオープル。
「あの……私、貴方と婚約なんてしていませんけど」
「は? 何を言うか! あぁ分かった、さては、恥ずかしすぎてごまかそうとしているんだな?」
勝ち誇ったような顔をするオープル。
「オープルさん、もしかして、リリカと間違えていません?」
「ハッ! 苦しいごまかしだな!」
「いえ、事実ですよ。私はリリカではありません、リリカの双子の妹です」
私とリリカは容姿が似ている。
これまで生きてくる中でも間違われることはあった。
「なっ……」
急に表情を固くするオープル。
それを見て、周囲の婦人たちはくすくす笑っていた。
「かっこよく婚約破棄を告げようとして逆に恥かかされてるわね……」
「だっさーい」
「あれはやばいわよねぇ」
婦人たちに笑われたオープルは顔を真っ赤にする。
「ち、ち、違うのか! なら最初にそう言えよ!」
「言いましたけど」
「……う、うるさい! うるさい女だな黙れ! いいからさっさと行ってくれ!」
オープルは声を荒くしながら全力で恥ずかしがっていた。
まぁそうか。
あれだけ堂々と人を間違えれば恥ずかしさもあるだろう。
だが自業自得だ。
彼は恐らくリリカに恥をかかせようと思っていたはず。だって、そうでなければ、他に人がいる場所で婚約破棄を告げる必要などないのだから。敢えて茶会の場を選んだというのは、リリカへの敵対行為と言える。
だから彼が恥をかくこととなっても気の毒には思わない。
「聞いた? 婚約者の方を間違えて婚約破棄を告げたんですって」
「ちょい馬鹿ね……」
「偉そうにかっこつけておいてはっずかしぃ」
ま、せいぜい恥をかいてくれ。
痛い目や苦しい目に遭わなかっただけ、彼はまだ幸せな方だろう。
ちなみに、その後、双子の姉リリカとオープルの婚約は正式に破棄となった。
私は知らなかったのだが、二人の関係には前々からひびが入りつつあったようだ。
それなら婚約破棄となっても仕方ない。
「これからまた世話になるから……よろしくね」
「リリカが帰ってきてくれて嬉しい! ありがとう!」
リリカが傍にいてくれることが何よりもの幸せ。
それが私の正直な気持ち。
もちろん、彼女がどこかへ行くことを望むなら、それで構わないとも思うけれど。
こうして私たち双子は再び同じ家での生活に戻った。
仲良しな家族四人での生活はとても楽しい。
◆終わり◆




