婚約破棄、雨降りの庭園にて。
その日、思い出の庭園に呼び出されたの。
珍しいことだったから不思議には思ったけれど。
でもそこへ行くことに迷いはなく。
雨が降っていたけれどそこへ向かったわ。
思い出の庭園。
私と彼が出会った始まりの場所。
「きみとはもう終わりにしようと思う」
彼はそう口にした。
衝撃はまるで雷。
厚い雨雲に覆われたあの空から雷が落ちてきたかと思ったくらいだった。
……雷は鳴っていなかったけれど。
視界が真っ暗になったような錯覚に陥り、脳は正常には働かず、ただ唇を震わせることしかできない。涙が溢れてくるところにまでも至れない。身体と脳、すべての回線が切断されたかのよう。見ている世界から色が失われていく。
そうだ。
これはあの時の逆。
彼と初めて出会った時、みるみるうちに世界が色づいていったの。
今はその逆だわ。
「そういうことだから。……じゃあこれで」
待って。
それすら言えなくて。
私は一人取り残されてしまったわ。
雨降りの庭園で一人ぼっち。
……こんなはずじゃなかった。
後悔しても、きっと、もう遅いのね。
これが私たちの運命、定めだったのね。
きっと、そう。
そうでなければ話が成り立たないもの。
私はただただ泣いた。
思い出の庭園にて。
◆終わり◆